猿猴 ― 中国・四国地方に伝わる猿のような河童 ―

猿猴(えんこう)とは、中国・四国地方に伝わる河童の一種のこと。
猿に似た姿といわれるが、全国的に語られる河童像に近い性格を持つとされる。
基本情報
概要
猿猴は、中国・四国地方に伝わる河童の一種で、猿に似ているといわれることが多い。
地域によって特性や呼称が異なるが、手が長く、頭に皿を持ち、片手を縮めると反対の手が伸びるといった共通する身体的特徴がある。また、相撲を好み、人や家畜を川や海に引き込んで尻から肝を抜くなどと語られており、全国的に語られる河童像に近い性格を持つとされている。
中国地方に伝わる猿猴は、エンコ、エンコウと呼ばれることが多く、イエンコウと呼ばれる例も見られる。多くは猿のような河童として語られるが、中にはネコやカワウソのような獣に近い生物として語られる例もある。また、人間がタケノコを食べているところを見て、恐れて逃げ出すという変わった話もある。
なお、山口県東部には「タキワロ」という妖怪が伝えられており、これが山で3年、川で3年過ごして海に至ると猿猴になるという伝承がある。また、広島県には猿猴が棲むという伝承に由来する「猿猴川」があり、毎年の4月下旬に「猿猴川河童まつり」が開催されている。
四国地方に伝わる猿猴は、エンコ、エンコー、エンコウ、エンコボーズなどと呼ばれる。こちらも猿のような河童として語られることが多いが、愛媛県においてはカワウソとして語られる例も見られる。また、金物や鹿角を嫌うという話や、人への変身能力を持つとされる珍しい伝承も語られている。
なお、高知県や徳島県には「シバテン」あるいは「芝天狗」と呼ばれる妖怪が伝えられており、高知市土佐山地区の伝承によれば、普段は山の中に棲んでいるが、旧暦6月6日の祇園の日になると川に入って猿猴になるといわれている。
また、青森県の一部にはエンコと呼ばれる猫のような怪物の話が伝えられている。このエンコは山から降りてきて女を孕ませたとされるが、猿猴の類であるかは不明である。しかし、青森県にはメドチと呼ばれる河童が伝えられており、女と交わって孕ませるという話が多いことから、一定の共通性が見られる。
このように、猿猴は猿や獣のような属性を持つ河童として伝承されている。特に四国地方では高知県や愛媛県、中国地方では山口県に伝承が多く見られ、これら三県に関する情報をまとめると以下のようになる。
高知県における猿猴は、エンコ、エンコー、エンコウなどと呼ばれており、他地域における河童のことであるとされている。
妖怪絵巻『絵本集艸』には、天保七年(1836年)に新改川の周辺で水遊びをしようと出かけた子供たちが、淵の中から現れた猿猴に襲われたと記されている。なお、新改川は高知県香美市を流れる川であり、昔は多くの河童が生息していたと伝えられているという。
また、地方の伝承では、人や馬を川に引き込んで肛門から肝を抜くといった話が多く見られる。馬を襲った話では、猿猴は逆に馬に引きずられて人間に捕らえられ、泣いて詫びたことで解放されるという、他の地域にも見られる河童伝承と酷似した内容となっている。ただし、馬を襲う場合は、肛門から体内に入り、肝を食いちぎって口から出てくるという話もある。
一方で、高知県では「鹿の角を忌避する」という独特な特徴も語られている。これに関わる伝承として、猿猴が恩返しとして魚を届けていたが、魚を掛ける鉤を鹿角に替えると来なくなったという話や、輪切りにした鹿角に紐を通し、子供の水難除けのお守りとして身につけていたという話などが確認できる。
また、猿猴が人間の男に化けて女と交わり、猿猴の子を産ませたという話も見られ、変身能力を持つ化物として語られる場合もある。
愛媛県における猿猴は、エンコ、エンコボ、エンコボーズなどと呼ばれているが、地域によって河童とカワウソの二通りの解釈があるとされる。
河童として語られる場合は、水辺に棲む河童や川太郎と同じような生物とされ、片手を縮めると反対の手が伸び、頭に皿を持つとされる。また、頭の皿に水があると剛力だが、水が無くなると非力になるという。一方で、カワウソとして語られる場合の特徴はあまり語られていないが、カワウソとされる河童伝承は三重県などでも確認でき、一定の共通性が見られる。
愛媛県のエンコは、人間のシリノコ(尻の肛)が好物で水中に引きずり込むといわれており、特に7月7日の水泳が忌避されている。その理由として、七夕には海や川で牛馬を洗う習わしがあり、そこでエンコが落ちたダニを拾いに集まるためだといわれている。なお、現地ではエンコによる水死を「エンコが人に憑く」というとされており、憑物のような意味合いとは異なる。
一方で、エンコは金物や鹿角を嫌うと言われている。ある伝承では、力持ちの老婆が川辺で見知らぬ二人の子供におぶってくれとせがまれた際に、エンコだと勘づいてそのまま捕らえると、エンコが悪事をやめるというので皿をとって放してやったという。すると、お礼に毎朝軒下の鉤に魚が掛けられるようになったが、鉤を鹿角に変えると来なくなったとされる。なお、高知県の伝承にも類似する話がある。
山口県における猿猴は、エンコ、エンコウ、エンノコなどと呼ばれているが、地域によって河童やカワウソなど複数の解釈で語られることがある。
河童として語られる場合は、川や海に棲む猿に似た生物とされ、手が長く、片手を縮めると反対の手が伸びる、あるいはカンヌキのようになっており、片方を引っ張ると両腕が抜けるといわれる。また、頭に皿を持ち、皿には水が溜まっているが失うと死ぬとされる。一方で、50センチ程度のカワウソやイタチのような生物とされたり、海に棲む猫のような生物で夜になると陸に上がってくると語られる場合もある。
山口県のエンコは、相撲やナスを好み、人間を川に引きずり込んで尻から肝を抜いて食べるとされる。足跡は5~6歳の子どものようで、雪が降った朝の山にはその足跡がよく見られるという。また、節句に生まれた子はエンコの餌食になりやすく、特に端午の節句に生まれた子が危ないとされている。さらに防府市の伝承では、池に三合ほどの水があればエンコウが棲むとされており、肛門から手を入れて舌を引き抜くといわれている。
データ
| 種 別 | 妖怪、UMA、伝説の生物 |
|---|---|
| 資 料 | 『絵本集艸』、民間伝承ほか |
| 伝承地 | 中国・四国地方の一部 |
| 年 代 | 不明 |
| 備 考 | 猿に似た河童とされる |
猿猴の資料
妖怪絵巻『絵本集艸』

天保七年(1836年)、子供が三人で新改川のあたりで水遊びをしようと出かけたところ、淵の中から突然、不意に何かが浮き上がってきて、引き込もうとした。そのため、裸のままの他の二人は逃げ帰ったそうだが、そのうちの一人は淵の底へ引き込まれて、水遊びをしていて死んでしまった。ここにあるこの川には、昔、河童がとても多く生息していたと、その土地の人々が言っていたそうだ。
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