宇賀神 ― 日本各地に祀られる人頭蛇身の福神 ―

宇賀神(うがじん)とは、日本各地で信仰されている人頭蛇身の神のこと。
財をもたらす福神として、全国の神社や寺院に祀られている。
基本情報
概要
宇賀神は、日本各地の神社や寺院で祀られている人頭蛇身の神であり、財をもたらす福神として信仰されている。一般的には、老翁の頭部にとぐろを巻いた蛇の胴体という独特な尊像の形で知られているが、頭部については若い男性や女性、あるいは仏のような顔など多岐にわたっている。また、名前についても宇賀神の他に、宇賀福神、宇賀徳正龍神など様々であり、弁財天と習合して宇賀弁財天として祀られていることもある。
この宇賀神の信仰は中世から始まったといわれており、14世紀頃の天台密教の口伝をまとめた『渓嵐拾葉集』によれば、宇賀神の本質は「天地・陰陽・理智」が不二(一体)である状態、すなわち相反する性質が調和した状態を指すとされ、これは弁才天の徳と同義であると説かれている。さらに「宇賀」という名の「宇」は天であり父を、「賀」は地であり母を象徴し、その間に生まれる人間を含めた「天地人の三才」を兼ね備えた存在を「宇賀神王」と呼ぶ。方位においては、悪神の居所とされる「巽(南東)」を封じるべく、対極の「乾(北西)」に位置してこれを制する、とも記されている。
また、南北朝時代の無文元選禅師の伝記である『方広寺開山無文禅師行状』には「三河国の三明寺は宇賀神が神として この世に現れた垂迹の地である」と記されている。なお、この三明寺は愛知県豊川市の豊川弁財天のことで、今でも弁財天の裏手に宇賀神像が祀られている。
戦国時代の百科事典『塵添壒嚢鈔』では、宇賀神を日本神話の神々と結びつけて解説している。これによれば、宇賀神は伊弉冉尊(イザナミ)から生まれた「倉稲魂命(ウカノミタマ)」、あるいは「保食神(ウケモチ)」のような食物神と同類であり、「ウカ」という発音から「宇賀」という名になったのであろうと推定されている。
また、丹後国の奈具の社に伝わる「水浴びをしていた天女が老夫婦に衣を隠され天に帰れなくなり、万病に効く酒を造って老夫婦に財をもたらしたが、老翁に追い出され、彷徨った末に安らげる場所に辿り着いた。その地は奈具の里と呼ばれるようになり、そこで女神として祀られ、宇加之御魂神(ウカノミタマノカミ)あるいは宇加能賣神(ウカノメノカミ)とも呼ばれるようになった」という伝承を挙げて、この神が「宇賀神」と呼ばれるのは、方便として人前に人頭蛇身の姿で現れるためであり、福神として家運や財運をもたらす存在であると結論づけている。なお、現在は京都府宮津市の奈具神社で豊宇賀能賣神(トヨウカノメノカミ)という神名で祀られている。
『藤澤山宇賀神縁起』には福神としての宇賀神についての逸話が記されている。徳川将軍家の始祖とされる有親・親氏父子が、南北朝の動乱で追われて上野国から逃亡した際、日頃から崇敬していた宇賀神に救いを懇願した。すると、夢の中に「鼠色の衣を着た僧(遊行上人)」が現れて窮地を脱する神託を授けた。これによって難を逃れられたため、有親はこの報恩に自らの守り本尊であった宇賀神の尊像を清浄光寺に奉納した。これが「藤澤山宇賀神」の由来となり、後に徳川家から始祖を救った神として厚い崇敬を受けることになったとされている。なお、この宇賀神像は神奈川県藤沢市の遊行寺の境内にある宇賀神社にて祀られている。
これらの資料から、宇賀神は中世以降、弁財天と密接に結びついた神仏習合の神として信仰されるようになり、同時にウカノミタマなどの食物神とも同一視され、福徳をもたらす神として広く崇敬されてきたことがわかる。現在でも各地の社寺において宇賀神像が祀られており、弁財天信仰と結びついた福神として信仰され続けている。
宇賀神の謎
そもそも、日本には多種多様な神が存在しているが、人頭蛇身という異様な形態の神はかなり希少である。どちらかといえば、中国の伏犠と女媧、燭陰などの『山海経』に登場するような神や、インド神話に登場するナーガのような半身半蛇的な神を彷彿とさせる。なお、宇賀神と結びつけられる弁財天の起源はインド神話に登場する女神サラスヴァティであり、日本においては八大竜王と習合して蛇神的な性格を帯びてきたことがわかっている。
そこで文献を調べて、宇賀神が古くから弁財天と密接に結びついた神であり、奈具神社に伝わる天女伝説から食物神や福神として信仰された起源が示されていることがわかった。しかし、京都府京丹後市の奈具神社について調べても、天女伝説は残っているものの、その天女(豊宇賀能賣神)が人頭蛇身の姿で人前に現れるような逸話は見つけることができなかった。
また、日本の食物神として祀られるウカノミタマは全国の稲荷神社の祭神として有名だが、『日本書紀』ではイザナギとイザナミから生まれた神、『古事記』ではスサノオとカムオオイチヒメの子として記述される程度であり、何をした神なのかについてはほとんど記されていない。それなのに全国的に幅広く祀られており、さらにその表記も倉稲魂命、宇迦之御魂神、宇賀能美多麻、宇賀魂神など多岐にわたっている。そのため、その出自を明確にさせるためには多くの謎が残されている。
宇賀神にまつわる社寺
神社
・氷川神社:埼玉県富士見市諏訪1丁目13-24
・江島杉山神社:東京都墨田区千歳1丁目8−2
・銭洗弁財天宇賀福神社:神奈川県鎌倉市佐助2丁目25-16
・前鳥神社(宇賀神):神奈川県平塚市四之宮4-14-26
・東方天満宮(宇賀福神):神奈川県横浜市都筑区東方町1275
・手子神社(竹生島弁財天社):神奈川県横浜市金沢区釜利谷南1-1-8
・下田神社:神奈川県横浜市港北区下田町3丁目1-4
・東叶神社:神奈川県横須賀市東浦賀2丁目21−25
・阿字ヶ池弁財天:神奈川県足柄下郡箱根町芦之湯
・福石神社:静岡県富士宮市元城町19-2
・豊津神社:愛知県豊川市豊津町釜ノ口75
・都久夫須麻神社(竹生島神社):滋賀県長浜市早崎町1665
・奈具神社:京都府宮津市由良宮ノ上3537-1
・神島神社:長崎県平戸市猪渡谷町723
寺院
・竺園寺:千葉県市川市国分5丁目15-2
・金昌寺:埼玉県秩父市山田1803
・清蓮寺:埼玉県日高市駒寺野新田130
・迎盛院:埼玉県久喜市伊坂中央1丁目9-1
・専称寺:埼玉県川口市上青木5丁目3-43
・不動院:東京都足立区南花畑3-25-8
・森巌寺:東京都世田谷区代沢3丁目27-1
・木母寺:東京都墨田区堤通2丁目16−1
・福寿院:東京都中野区本町3丁目12-9
・大盛寺(井の頭辨才天):東京都三鷹市井の頭4-26-1
・立石不動尊:神奈川県横須賀市秋谷3丁目6-2
・時宗総本山遊行寺(宇賀神社):神奈川県藤沢市西富1-8-1
・浄智寺:神奈川県鎌倉市山ノ内1402
・妙圓寺:神奈川県平塚市土屋1949
・龍源院:神奈川県座間市入谷西2丁目48
・宝泉寺:神奈川県厚木市上依知1516
・永安寺:石川県金沢市舘山町キ1-7
・三明寺(豊川弁財天):愛知県豊川市豊川町波通37
・妙厳寺(豊川稲荷):愛知県豊川市豊川町1
・筒島弁財天(宇賀神祠):愛知県西尾市一色町佐久島筒島
・三室戸寺:京都府宇治市莵道滋賀谷21
・京都大原三千院:京都府京都市左京区大原来迎院町540
・妙國寺:大阪府堺市堺区材木町東4-1-4
・二老山和田寺:兵庫県篠山市今田町下小野原69
・喜光寺:奈良県奈良市菅原町508
※調べて確認できたもののみ
データ
| 種 別 | 神仏 |
|---|---|
| 資 料 | 『渓嵐拾葉集』『無文禅師行状』『塵添壒嚢鈔』ほか |
| 年 代 | 不明(中世以降とされる) |
| 備 考 | 弁財天や奈具神社の天女伝説に関係が深いとされている |
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