虹蛇【Rainbow Serpent】
珍奇ノート:虹蛇 ― 世界各地の神話や伝承に現れる虹色の大蛇 ―

虹蛇(レインボー・サーペント)とは、世界各地の神話や伝承に現れる虹色の大蛇のこと。

オーストラリアに伝わるものが有名だが、西アフリカや南米などにも類似する概念が存在している。


基本情報


概要


虹蛇(レインボー・サーペント)は、世界各地の神話や伝承に現れる虹色の大蛇で、自然や生命の創造、地形の形成、宇宙秩序などと深く結びつく存在であることが多い。オーストラリアのアボリジニに伝わるものが有名だが、フィジーや西アフリカにも類似する虹蛇が存在する。

また、南米においては強力な幻覚作用を持つアヤワスカと呼ばれる植物の煮汁を摂取した際の幻視体験において、虹色の蛇と出会うという体験が報告されており、広義にはこれも虹蛇に含まれている。文化ごとに異なる伝承を整理すると、大きく次のようなタイプに分類できる。

オーストラリア(創造主、地形の形成者、自然の守護者としての虹蛇)
アボリジニのドリームタイム神話に登場する虹蛇は、エインガナに代表される創造神・始祖としての虹蛇、ガルングリに代表される地形の形成者・変容者としての虹蛇、ユルルングルに代表される自然現象の守護者・荒神としての虹蛇の3タイプに大別することができる。

創造神・始祖としての虹蛇(エインガナ型)

生命の産出、種の発現、全生命との根源的つながりを役割とする。

エインガナ(アーネムランド西部)腹に生命を宿し、穴を開けて放出、生命の紐で全生物とつながる
・ウォヌングル(アーネムランド・キンバリー):大地の創造に関わる祖霊的虹蛇で、水と生命の源として語られる
・ウングル(キンバリー地域):水や雨と結びつく祖霊的存在で、世界創成や生命の起源に関わる虹蛇
・ウングッド(キンバリー地域):卵や抜け殻から人間・生き物を生む両性具有的創造神
・クナパピ(北部地域):儀式名でもあるが、大母神として豊穣・生命再生を司る

地形の形成者・変容者としての虹蛇(ガルングリ型)

地形の造形、川や山の彫刻、地標の確立を役割とする。

ガルングリ(アーネムランド)体で大地を這い、河川や渓谷を削り出す
・ウォルンクァ(中央オーストラリア):地下を移動し複雑な地形や水脈を形成した
・ガレル(アーネムランド東部):移動軌跡が川、横たわった場所が永続的な水穴になった
グーリャ(クイーンズランド州北部)居場所を求め旅し、地形を形成した
ワギャル(西オーストラリア州ノンガル族)大地を這い回って地形と水源を形成した

自然現象の守護者・荒神としての虹蛇(ユルルングル型)

水の管理、気象制御、社会的掟の監視・罰を役割とする。

ユルルングル(アーネムランド東部)掟と儀礼を教える秩序の守護者
・イェロ(クイーンズランド州北部沿岸):洪水や嵐と結びつく水の精霊的蛇
・カーリア(西オーストラリア北部):水域を支配する巨大蛇で、禁忌破りに罰を与える
・タイパン(北オーストラリア〜クイーンズランド):神話では破壊的蛇として自然の脅威を象徴する場合がある
・ミンディ(北オーストラリア〜クイーンズランド):神話では破壊的蛇として自然の脅威を象徴する場合がある
・ムイト(ノーザンテリトリー北部):洪水や嵐を起こす蛇的祖霊として語られる
・ランガル(クイーンズランド州北東部):水辺や嵐を支配する蛇的存在
ワナンビ(中央砂漠地帯)水源監視、怒りで砂嵐や干ばつをもたらす
ンガリョッド(アーネムランド西部)自然の猛威と水の破壊力を象徴、禁忌破りを裁く

西アフリカ(万物創造や宇宙秩序に関わる虹蛇)
西アフリカに伝わる虹蛇は、宇宙秩序の維持者、天地を結ぶ虹蛇、創造・支柱としての象徴という特徴がある。

フォン族神話に登場するアイド・ウェドは、創造神マウ=リサの創世神話において世界の形成を助けた大蛇である。大地や河川はこの蛇が動く際に形作られたとされ、世界が完成した後は海底に身を横たえ、身体をとぐろ状に巻いて大地を支える。

その長大な身体は天と地をつなぐ存在とされ、虹と結びつけられることもある。大西洋奴隷貿易を通じてカリブ海地域へ伝わったこの神話は、やがてハイチ・ヴードゥーの虹の女神アイダ・ウェドの信仰に結びつき、虹や雨、豊穣を司る精霊としての性質を帯びるに至った。

アイド・ウェド(Aido Hwedo)フォン族の創造神話に登場する虹蛇で、世界を支え、大地や河川を形作る
アイダ・ウェド(Aida Wedo)ハイチ・ヴードゥーの虹蛇で、天空と地上を結び、雷雨や生命の循環に関与する

南米(幻視体験に現れる虹蛇)
南米に伝わる虹蛇は、シャーマンの儀式によって現れる幻視体験の象徴という特徴がある。

アマゾン地域に伝わるヤクママやボイウナなどの水蛇は、河川や湖を守る巨大な精霊であり、アヤワスカ儀式や幻覚体験とも結びついている。人々はその力を恐れ、敬意を払うと同時に、水域や自然の神秘を象徴する存在として捉えていた。

なお、近年行われているアヤワスカ・リトリート(Ayahuasca Retreat)というアヤワスカ体験ツアーにおいて、その体験者が虹蛇(レインボー・サーペント)と出会って会話したなど、幻視の体験談がネット掲示板やSNSなどに上げられていることもある。

ヤクママ(Yacumama)アマゾン地域で「水の母」と呼ばれる精霊的な水蛇で、イカロ(儀式歌)に名前が登場する
サチャママ(Sachamama)アマゾン地域で「森の母」と呼ばれる精霊的な大蛇で、イカロに名前が登場する
ボイウナ(Boiuna)アマゾンの黒い水蛇で、アヤワスカの幻視体験に登場したとする経験談が存在する

その他
フィジー神話に登場するデンゲイは、世界や生物の創造主とされる蛇神であり、自然現象と結びつく力を持つとされる。オーストラリアの虹蛇と類似する性質を持つため、その一種に数えられることもある。

データ


種 別 神仏、伝説の生物
伝承地 オーストラリア、西アフリカ、南米ほか
年 代 不明
備 考