九頭竜 ― 9つの頭を持つ伝説の龍 ―
九頭龍(くずりゅう)とは、9つの頭を持つ伝説の龍または大蛇のこと。
日本各地に伝説があり、善龍として崇められたり、悪龍として退治されたりと様々な形で伝えられている。
基本情報
概要
九頭龍は、日本各地の伝承に登場する龍または大蛇で、9つの頭を持つという特徴があるが、性格や正体については伝説によって異なる。そのため、九頭龍と呼ばれていても、それが同一のものであるとは言いがたい。
九頭龍の伝説は、東北から九州に至るまで各地に残されているが、その中でも取り分けて長野県の戸隠山には数多くの伝説が伝えられている。まずは、日本神話の天岩戸伝説から続くもので、天岩戸に隠れた天照大神を引っ張り出した天手力雄神から分かれた御魂が九頭龍となったという伝説がある。この伝説によれば、天手力雄神が天岩戸の扉石を投げ飛ばし、扉石が地に落ちた時に戸隠山となり、それと同時に九頭龍が生じたとされ、後に天手力雄神と会って自らを天手力雄神の荒魂であり奇魂であると語り、それ以来 協力して天下国家の守護神となったとされている。
また、ある別当が仏法を蔑ろにして貪欲な生活をしたことで九頭一尾の龍と化してしまったが、飯縄山に来た行者の修法によって改心し、戸隠山の窟に籠って九頭龍権現となったという伝説や、修験道の祖である役小角が戸隠山の主の姿を拝もうとして登頂した際に、九頭龍権現が巨大な大竜王の姿で現れたといった伝説もある。
一方、関東地方では悪龍であったとする伝説があり、千葉県の鬼泪山の伝説では九頭龍が人を襲って喰うので、都からヤマトタケルが派遣されて九頭龍を退治し、後にその御魂を九頭龍権現として祀ったとされ、神奈川県の箱根では、芦ノ湖に住む毒龍が毎年一人の娘を生贄として求めていたので、萬巻上人という高僧が修法によって退治し、仏法を説いて調伏させたことで、九頭龍大明神として地域の守護神となったと伝えられている。
また、北陸地方では白山権現と深い関係があるとされ、石川県には白山権現の化身として修験者の前に現れたという伝説があり、福井県には白山権現の使いとして九頭龍が現れたということで九頭龍川の語源となったという伝説がある。
関西地方では善龍として伝えられていることが多く、滋賀県では弥勒菩薩の使いとされ、奈良県では疫病の原因となる鬼を喰うとされ、大阪府では武将の手違いによって目を射抜かれて死んだが、その際に湖水を溢れされたことによって肥えた土地ができ、後に多くの田畑ができて人々に感謝されたという伝説が伝えられている。
その他の伝説としては、青森県の十和田神社の由緒として、八郎太郎というマタギが十和田湖のイワナを食べたことで八頭の大蛇となって湖を支配していたので、熊野の神によって導かれた南祖坊という僧侶が法力によって九頭龍に変化し、十和田湖から追い払ったという伝説がある。また、熊本県の阿蘇山には、千日の修行の末に空を悟った行者が阿蘇山の主の正体を拝もうと登頂した際に、その傲慢さを気づかせるため、十一面観音が様々な姿に化身して現れたという伝説があり、その化身の一つにと九頭八面の龍があったとされている。
このように各地には九頭龍に関する様々な伝説があるが、同じく多頭の大蛇として伝えられているヤマタノオロチとは違い、概ね善龍として扱われている。そのため、具体的な伝説の無い地域でも神社の祭神なっており、特に水神(雨乞いの神、海運の神)として祀られていることが多い(主祭神でなくとも、境内社として祀られているケースが多々ある)。
九頭龍権現の神徳(霊験)
・水の神:権現の力で雨が降った、水難を避けたなどの伝説がある
・農業の神:権現の力で井戸水や農業用水が湧いたという伝説がいくつもある
・歯の神:権現の力で歯痛が治った、歯が生え揃ったなどの伝説がある
・足腰の神:権現の力で歩けるようになったという伝説がある
・安産の神:権現を信仰することで子宝に恵まれたという伝説がいくつもある
・火避の神:権現を信仰することで類焼を避けられたという伝説がある
・酒造の神:権現に神酒を供えたことで、酒造が上手くいったという伝説がある
・難病の神:権現を詣で続けたことで難病が平癒したという伝説がある
・長寿の神:権現の力で寿命を授かったという伝説がある
・解呪の神:祟られたものが権現を信仰することで救われたという伝説がある
データ
種 別 | 伝説の生物、神仏 |
---|---|
資 料 | 各地の文献、民話など |
年 代 | 神代、奈良・平安時代など |
備 考 | 九頭一尾とされることが多いが、伝説によって正体が異なる |
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