件(くだん) ― 日本各地に出現する半人半獣の予言獣 ―
件(くだん)とは、日本各地で目撃されている半人半牛の予言獣のこと。
生まれた後に災害や戦争などの重大な予言を語るが、数日以内に死んでしまうといわれている。
基本情報
概要
件(くだん)は、古くから日本各地で目撃されている妖怪で、災害や戦争など様々な予言を残すといわれている。
「件」という漢字の通り半人半牛の獣で「出現すれば豊作になり、絵図を貼っておけば除災招福の御利益がある」と信じられていた。また、幕末頃には「牛から生まれる人語を話す獣で、生まれて数日で死ぬが その間に作物の豊凶・流行病・災害・戦争などの重大な予言を語り、それは確実に起こる」といわれるようになったという。
この他にも「必ず当たる予言を残してすぐに死ぬ」「歴史に残る大凶事の前兆として生まれ、数々の予言をし、凶事が終われば死ぬ」「雄は必ず当たる予言をし、雌はその予言の回避方法を教えてくれる」「山に入った女と交わって子を産ませる」などの異説があるようだ。
件の最古の記録は、文政10年(1827年)の越中国立山での目撃例とされており、当時の瓦版には「自ら"くだべ"と名乗り、疫病の流行を予言し、回避する方法を教えた」とあるが、挿絵には人面犬のような獣が描かれている。"くだん"としては天保7年(1836年)の瓦版に載せられたものが最古であるが、ここには件が予言を残したといった記述はない。
民間伝承においては、明治以降に大災害や戦争に関する予言を残したと伝えられており、地域によっては半人半牛ではなく、馬・蛇・魚の頭や身体を持った件の目撃例もある。また、明治から昭和にかけて件の剥製が見世物小屋で公開されるようになり、長崎県の博物館で展示されたこともあったようだ。
なお、件の目撃情報は現代でも報告され続けており、近年では阪神大震災・東日本大震災・熊本地震などの大災害の時に目撃されることが多いが、目撃談の大半が"牛の頭を持つの女"であり、予言を残したといった情報もない。そのため、「牛女」という別種の怪物として扱われることもある。
・頭は人で、身体は牛
・頭は牛で、身体は人(中国地方の民間伝承ほか)
・頭は人で、身体は馬・蛇・魚(宮崎県の民間伝承)
・頭は蛇で、身体は人(長野県の民間伝承)
・頭は馬で、身体は人(山梨県の民間伝承)
データ
種 別 | 日本妖怪 |
---|---|
資 料 | 江戸時代の瓦版、『道徳塗説』ほか |
年 代 | 江戸時代~現代 |
備 考 | 予言獣の一種 |
資料
江戸時代の瓦版(天保7年)
大豊作を知らせる件(くだん)という獣
天保7年(1836年)12月、丹波国の倉橋山の山中に、図のように身体は牛、顔は人に似た件(くだん)という獣が現れた。昔、宝永2年(1705年)12月にも件が現れ、その翌年から豊作が立て続けに起こったということが古書に見える。
もっとも件という文字は人偏に牛と書いて"くだん"と読む。なお、心の正直な獣であることから証文の終りにも如件(くだんのごとし)と書く由縁となっている。
この絵図を貼り置けば、家内繁盛して厄病を受けず、一切の災いを免れて、大豊年となる 誠にめでたい獣である。
記録
・1705年12月、件が現れた後に、豊作が続いたという記録が古書にあるとされる
・1827年、越中国の立山にクタベと名乗る人面獣が現れて予言を残した
・1836年12月、丹後国の倉橋山に件という人面牛身の怪物が現れた
・1867年4月、出雲でクダンが生まれ、豊作と疫病の予言を残した
・1899年、五島列島の農家の牛が人面の子牛を産み、日露戦争を予言して死んだ
・1930年頃、香川県の森に件が現れ、戦争の勝利・疫病の流行・戦災を免れる方法を予言した
・1943年、山口県岩国市の下駄屋に件が生まれ、戦争の終結を予言した
・1945年、愛媛県松山市などで「神戸の件が生まれ、戦災を免れる方法を予言した」という噂が流布した
・阪神大震災後、六甲山麓の高速道路などで赤い着物を着た牛が多数目撃される
・東日本大震災後、瓦礫の街中を着物のような服で牛のような顔の長髪の女が歩いている様子が目撃された
参考サイト:件の目撃の歴史、及び予言
各地の民間伝承
・山梨県の富士河口湖で「頭が馬で体は人の怪物」が目撃された
・長野県で蛇頭人身の件が生まれ「小豆飯を食べれば病難や空襲」を避けられると予言した
・京都府天田郡に人面牛身の件がいたとされ、「件が今年どういうた」などと言うらしい
・和歌山県新宮市の漁師の家に牛頭人身の件が生まれ、成長しても白痴で獣のように這うだけだったという
・岡山県では憑物の結果として件が生まれるという、人と牛の間の子で千里眼を持つことがあるらしい
・岡山県の川上村で件が生まれ、大戦争が起こるという予言を残したらしい
・岡山県の中和村で件が生まれ、例年は大豊作だが流行病が起こるという予言を残したらしい
・岡山県の八束村で件が生まれ、大風が吹くと言ったらしい
・岡山県新見市の大佐町に件が現れ、現地では「件の予言は当たる」と言われているらしい
・岡山県の草間村に生まれた件は、ブヨブヨした赤い肌にチラホラ毛が生えていたらしい
・鳥取県に生まれた件は関東大震災の予言を残したらしい
・広島県で満州事変の時に件が「来年大戦争と悪疫が起こる、避けるには豆を煎って7つの鳥居をくぐれ」と予言した
・広島県では「件は稀に牛から人面牛身の姿で生まれ、数日で死ぬが必ず的中する重要な予言を残す」といわれる
・広島県の山縣郡では牛が人面牛身の件を産むとされ、第二次世界大戦の勝利の予言をしたとされる(外れる)
・香川県には人面牛身の件が教えたという"小豆飯と手首を糸でくくる厄除け"があるらしい
・宮崎県では件は人頭獣体の怪物で、身体は牛の場合が多いが、馬・蛇・魚の場合もあるとされる
・宮崎県で昭和初期に生まれた件が食料を備蓄を促す予言をした後、第二次世界大戦が起こったという
・五島列島の農家の牛が人面の仔牛を産み、日露戦争を予言して死んだ
・長崎市にあった八尋博物館には五島列島で生まれた件の剥製が展示されていたという
関連する妖怪
くだべ
くだべとは、江戸時代の瓦版や随筆『道徳塗説』で紹介されている予言獣で、人面犬のような姿で描かれている。
記録としては、文政10年(1827年)に越中国(現・富山県)の立山の薬草園に現れ、自らクタベと名乗って「これから数年の間 疫病が流行して多くの犠牲者が出る。だが、自分の姿を写した肖像を一度でも見れば、その者は病難を逃れるだろう」と言い残して去っていったとされている。
なお、予言の内容は神社姫などの記録と酷似しており、『道徳塗説』では これを模した創作と指摘されている。
『道徳塗説』
越中国の立山に薬草採集を生業にしている男が居た。ある日、この男が薬草を探して山深く入っていくと、図のような山精が現れてこのように語った。
「私は、この山に長年棲んでいる"クタベ"という者である。この年より3~5年の内に名も無き得体の知れぬ病が流行するだろう。草・根・木の皮など、いずれも薬の効き目はなく、どのような名医にも治す術はない。だが、私の肖像を描き、一度でも見せれば、この災難から必ず逃れられるだろう」
クダベは語り終えると、かき消えるようにに姿を消してしまった。
「江戸時代の瓦版」
唐名では「件(くだん)」、日本では「くたべ」という。
越中国立山の薬草園にくたべが現れてこのように告げた。
「今年から4~5年の間に、名も無き病にて多くの人が死ぬだろう。私の姿の絵を常に見ていれば、この病から逃れることができ、長寿になるだろう」
「もろこしの 件は今は 立山に しのむて語る 神の知らしめ」
牛女
牛女とは、地震の被災地などで目撃されている怪物で「牛面人身で和服を着た女」であったといわれている。
一説に第二次世界大戦末期から戦後復興期にかけて目撃されるようになり、空襲の焼け跡で動物の死骸を貪っていた、空襲後に肉牛商の焼け跡にいた、などの目撃例があるという。なお、目撃地は兵庫県の西宮市、甲山近辺に集中しているらしい。
近年では、阪神大震災後に六甲山麓の高速道路などで「赤い着物を着て直立した牛の群れ」が目撃されるようになり、震災の応援で送られてきた警備員の報告書には20件以上の目撃例があるとされる。
また、東日本大震災後には自衛官が瓦礫の街中を派手な着物のような服装で牛女が歩いていたという目撃例があり、その他にも熊本地震の際に目撃したという話もあるようだ。
しかし、被災地で目撃されているものの、くだんのように予言を語ることは無いらしい。
備考
すかべ(パロディー妖怪)
すかべとは、くだべの瓦版のパロディー記事に登場する妖怪のこと。
くだべが放屁して鼻を摘んでいるような挿絵が描かれており、記事の内容も明らかに創作されたものになっている。
元ネタと比べてみると、江戸時代のユーモアセンスが垣間見えて なかなか面白い。
「江戸時代の瓦版」
スカ屁(すかべ)
越中の「かき山」にある「いまき谷」に「尻が洞」という割れ目があり、そこから「すかべ」というものが出てきて、肥やし取りの男にこのように語った。
「今年から4~5年の間に名も無きオナラが流行する。いもべの薬も効き目はなく、手に汗握りべ、さいごべのことがある。私の姿と青い顔を絵図に写して、貼っておけばその難を逃れ、家内健康・息災延命であること疑いなし」
「どこもかもくだべ あんまりくだべで はらもくだべ いふのもくだべ あとから出すなをくだべ」
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