朱雀門の鬼【スザクモンノオニ】
珍奇ノート:朱雀門の鬼 ― 平安京の朱雀門の棲む鬼 ―

朱雀門の鬼(すざくもんのおに)とは『長谷雄草紙』に登場する鬼のこと。

平安京の朱雀門の楼上に棲み、公卿の紀長谷雄と双六で勝負したとされている。


基本情報


概要


平安時代の公卿である紀長谷雄にまつわる絵巻物に『長谷雄草紙』がある。朱雀門の鬼は『長谷雄草紙』に登場する鬼で、双六の名手であった長谷雄に勝負を挑んだという以下のような説話が載せられている。

中納言の紀長谷雄は学問や諸芸に通じた人物であった。

ある日の夕暮れ時、長谷雄が内裏に向かおうとしたところ、そこに恐ろしい目つきの見知らぬ男が現れて「双六の名手である貴方と是非とも勝負したい」というので、長谷雄は勝負を受けることにした。

すると、男は我が家で勝負しようと言うので長谷雄がついていくと、やがて平安京の朱雀門に到着した。男は朱雀門の楼上に登り、登れずにいた長谷雄を引き上げると、早速 双六の勝負を始めることにした。

この勝負では、男は"絶世の美女"を賭けると言うので、長谷雄は"全財産"を賭けるということで互いに了承した。それから勝負が始まると、長谷雄が次々に勝ち続けたので、男は負けるごとに心を乱して、顔色が変わっていった。

しばらくすると男は正体である鬼の姿に変わったので、長谷雄は恐ろしく思ったが心を落ち着かせて勝負を続け、双六勝負は遂に長谷雄の勝利で終わることになった。そこで鬼は負けを認めて後日 女を届けると約束した。

長谷雄が女を心待ちにしていると、鬼が美女を連れて長谷雄の許を訪れて「この女は差し上げますが、今宵より100日経った後で抱いてください。そうでなければ残念なことになりましょう」と言い残して去っていった。

長谷雄は この美女をとても気に入っていたので いつも一緒に過ごすようになり、80日過ぎた頃に我慢できなくなって女を抱こうとすると、女は水のように溶けて消え失せてしまった。これに長谷雄は酷く悔やんだ。

その後、長谷雄の前に例の男が現れて、長谷雄の不誠実を責めて襲いかかろうとしたので、長谷雄は北野天神に一心に救いを念じた。すると、空に天神の怒声が響いたので、これを恐れた鬼は早々に去ってしまった。

この男は朱雀門に棲む鬼であり、例の美女は鬼が死人の優れた部分を集めて人の形に作ったもので、100日過ぎれば本物の人間になって魂が定まるはずだったが、長谷雄が約束を破ったために溶け失せたのだった。

データ


種 別
資 料 『長谷雄草紙』
年 代 平安時代
備 考 人に化ける鬼