珍奇ノート:足長手長の伝説



磐椅神社の由来(福島県耶麻郡)


昔、磐梯山が病悩山と呼ばれていた頃のこと、この山には足長と手長という夫婦の魔物が住んでいた。夫の足長はとても長い足を持っており、病悩山と明神ヶ嶽に跨って雲を集めて日の光を遮っていた。また、妻の手長はとても長い手を使って、病悩山に腰を掛けたままで猪苗代湖の水をすくって振りまいていたので、それが雨のように降り注いだ。このようなことが毎日のように続いたので、麓の村では作物が実らなくなり、人々は困り果てていた。

ある時、旅の僧が村に立ち寄って、村人から魔物の話を聞いたので、僧は退治を決意して早速 山に向かって魔物を呼び出した。すると、足長・手長がやって来たので、僧は手のひらに鉢を置いて「お前たちは随分大きな身体だが、その身体ではこの鉄鉢に入ることはできまい」と言うと、足長・手長は自慢げに身体を小さくしていって鉄鉢の中に入ってしまった。

そこで僧は鉄鉢を自らの法衣で縛り、それを病悩山の山頂に埋め、さらに その上に大きな石を乗せると、呪文を唱えて二度と出られないように密閉して「これからは山の明神様として祀るから、人々のために尽くしなさい」と言い聞かせた。その後、山の麓に社殿を設けて足長・手長を祀った。これが今の磐椅神社であるとされている。なお、この僧は全国行脚していた弘法大師で、会津の人々の安寧のために5体の薬師如来像を安置したともいわれている。

磐梯山の足長手長(福島県猪苗代町)


昔、磐梯山に足長手長という化物が住んでいた。

足長はとても足が長く、足を伸ばすと磐梯山から隣の博士山や明神獄にまで一跨ぎで歩けるほどだった。この足長は、空の雲を集めて太陽を隠し、大雨を降らせて人々を困らせており、そのがなり声はとても恐ろしかったという。

手長はとても手が長く、その手は磐梯山からはみ出るほどだった。この手長は、猪苗代湖の水を手ですくっては会津盆地にばら撒いていたので、周辺は大荒れして人々は困っていたという。

また、この二人の息は大風になり、これに手長が撒いた水が加わると暴風雨となり、橋を流してしまうほどの大洪水が起こった。このように毎日が荒れた天気だったので、農作物が育たずに人々は食うものに困るようになっていた。

ある時、村に旅の僧が通りかかり、村人たちの困った様子に見かねて化物退治を決意した。だが、その僧は細々した体格で見るからに痩せこけており、着物もボロボロだったので、村人たちは心配になって必死に止めるように呼びかけた。

だが、僧は村人たちの言うことには耳を貸さずに経を唱えながら磐梯山に登っていった。僧は山の頂上に着くと、大声で化物を呼びつけた。すると、怒った様子で足長手長の二人が姿を現した。

そこで僧は「お前たちには出来ないことが無いと聞くが本当か?」と尋ねると、二人は「できないことなど何もない」と言うので、僧が「ならば大きくなってみよ」と言うと、二人は得意げに大きくなって天に届くほどの背丈になった。

これを見た僧は二人を褒めると「じゃあ小さくなることはできるか?」と尋ねた。すると、二人は「どのくらいになればいいのだ?」というので、僧は小さな壺を取り出して「この壺に入ってみよ」と言った。

これに二人は鼻で笑いながら小さくなって壺に飛び込んだので、僧は二人が入りきったところで壺の蓋を閉めて、千切った衣の袖に包み込んでしまった。これに二人は怒って中で暴れたが壺の蓋は開くことはなかった。

そして僧は壺を磐梯山の頂上に埋めたという。この後、村人たちは僧を弘法大師様だと噂するようになり、僧の活躍を讃えて壷を埋めた場所に磐梯明神を建てた。また、この側には清水が湧き出ており、これは弘法清水と呼ばれている。

『甲子夜話』巻之二十六


『三才図会』によれば「長脚国は赤水の東にあり、近くには長臂国がある。長脚人は常に長臂人を背負い、海に入って魚を捕る。長臂人の身長は普通の人間と変わらないが、腕の長さが二丈(6.06m)もある」のだという。長脚人の脚の長さは記されていないが、長臂人を背負って海に入るのであれば、その脚の長さも二丈(6.06m)くらいはあっただろうと思われる。

平戸城から西北に8キロばかりのところに神崎山がある。その辺りの海で、晴れて穏やかな夜に ある侍が従者を連れて小舟に乗り、釣糸を垂れていた。そんな時、ふと遠目の海岸を見ると、何者かが松明をかかげて佇んでいたので、侍は その姿の異様さに目をむいた。その者は腰から上は常人と違わなかったが、脚の長さは9尺(約2.7m)くらいあったのだ。

従者が言うには「あれは足長と呼ばれるもので、あれが出ると必ず天気が急変しますので、早々にこの場を逃れなければなりません」とのことだったが、その時には空に一点の雲の無かった。とても天気が変わるとは思えなかったが、それでも舟を引き返して1キロほど漕いで行ったところ、にわかに黒雲が現れ、猛烈な雨が降ってきた。とても城下に帰れそうもなかったので付近で宿を取ることにしたが、まもなく雨は止み、また空が晴れてきたという。

この足長も、妖怪とは言え天地の間に存在するものだ。と、すると長脚国の存在も根も葉もない話ではあるまい。