黄泉軍/黄泉戦【ヨモツイクサ】
珍奇ノート:ヨモツイクサ ― 黄泉国の軍勢 ―

黄泉軍(よもついくさ)とは、日本神話に登場する黄泉国の軍勢のこと。

イザナギが黄泉国から逃走する際に、イザナミに追手として遣わされたとされている。


基本情報


概要


黄泉軍は、日本神話の「イザナギの黄泉国訪問神話」に登場する魔物である。『記紀』においては『古事記』にのみ登場し、イザナギが死者となったイザナミに逢うために黄泉国に向かうが、そこで見たイザナミは腐乱した醜い姿だったので、驚いて逃げ出してしまう。これに怒ったイザナミは黄泉醜女を放ってイザナギを追わせたが なかなか捕えなかったので、自らの肉体に生じた雷神に1500人の黄泉軍を副えて追わせたとされる。

黄泉軍に関する記述は上記のように少なく、容姿や能力に関することは記されていない。だが、『古事記』の文面を見る限り「黄泉軍」は固有名詞ではなく「黄泉国の軍勢」を意味する総称だと考えられる(ちなみに〇〇イクサという名は、軍勢を指す名詞として様々な神話に登場する)。

また、黄泉軍はイザナギが黄泉比良坂に生えていた桃の実を投げつけたことで退散したとされる。よって、この桃はイザナギによってオホカムヅミという神名を与えられて神となった。なお、この説話は日本において桃が魔除けの象徴とされる一因として挙げられている。これが原因なのか、黄泉軍は鬼として扱われることもある。

データ


種 別
資 料 『古事記』
年 代 神代
備 考 桃が弱点

資料


『古事記(黄泉の国)』


イザナギとイザナミは二人で協力して国土や森羅万象の神々を生んだ。だが、イザナミが火の神カグツチを生む時に御陰を焼かれてしまい、死者の行く黄泉の国へと旅立ってしまった。

イザナギは もう一度イザナミと会いたいと思い、後を追って黄泉の国へと向かった。黄泉の国のイザナミの御殿に着くと、イザナギは「愛しき妻よ、まだ国作りは終わっていないから帰ってこい」と言った。すると、イザナミは「それは残念なことをしました。どうしてもっと早く来てくださらなかったのですか。私は黄泉の国の食物を食べてしまったので帰ることはできません。ですが、せっかく来て下さったのですから黄泉の国の神々に相談してみましょう。その間、決して私を見てはなりませんよ」と言い、御殿の奥へと入っていった。

そこで、イザナギは言われた通りに待っていたが、いくら待っても一向に返事がない。しびれを切らしたイザナギは、髪に挿していたクシの歯を一本折り、それに火を灯して明かりとし、御殿に入って周囲を見渡してみると、そこには変わり果てた姿になったイザナミがいた。その姿は体中にウジがうごめき、頭から体の端々まで雷が生じているというものだった。

これを見たイザナギが驚きのあまり逃げ出すと、イザナミは「私に恥をかかせましたね」と言って黄泉醜女(ヨモツシコメ)に追いかけさせた。そこで、イザナギは髪に付けていた黒蔓を取って投げつけると、落ちたところから山葡萄が生えてきた。これを黄泉醜女が食べ始めたので その間に逃げのびた。それでもまだ黄泉醜女が追ってくるので、今度は右の角髪に挿していたクシの歯を折って投げると、落ちたところからタケノコが生えてきた。これも黄泉醜女が食べ始めたので、その間に逃げ出した。

すると、今度はイザナミの身体に生じた雷神に1500人の黄泉軍(ヨモツイクサ)を副えて追わせたので、イザナギは十拳剣で振り払いならが逃げ続け、ようやく黄泉比良坂の坂本まで来たので、そこに生っていた桃の実を3つとって投げつけると、追手は皆逃げ去った。そこで、イザナギは桃の実に「お前が私を助けたように葦原中国の人々を助けてやってくれ」と言って、桃に意富加牟豆美命(オホカムヅミ)という神名を与えた。

最後にイザナミ自身が追ってきたので、黄泉比良坂の入口を千引の岩(千人がかりで動かすような大岩)で塞ぎ、悪霊どもが出入りできないようにした。そこで岩越しにイザナミが「あなたがこのような行いをされるので、私はあなたの国の人間を一日に1000人殺しましょう」と言った。これにイザナギは「そなたがそうするなら、私は一日に1500人の産屋を立てよう」と答えた。このため、一日に必ず1000人死に、必ず1500人生まれるのである。