黄泉醜女/泉津醜女/予母都志許売【ヨモツシコメ】
珍奇ノート:ヨモツシコメ ― 黄泉国の鬼女 ―

黄泉醜女(よもつしこめ)とは、日本神話に登場する黄泉国の魔物のこと。

イザナギが黄泉国から逃走する際に、イザナミに追手として遣わされたとされている。


基本情報


概要


黄泉醜女は、日本神話の「イザナギの黄泉国訪問神話」に登場する魔物で、イザナギが亡き妻であるイザナミに逢うために黄泉国に向かった際に、そこで見たイザナミが腐乱した醜い姿だったので驚いて逃げ出すと、これに怒ったイザナミは黄泉醜女に命じてイザナギを追わせたが、イザナギが逃げる間に髪に付けていた黒蔓や櫛を投げるとそこに葡萄や筍が生じ、これを黄泉醜女が食べ始めてしまったため、結局捕えることが出来なかったとされる。

『古事記』では予母都志許売、『日本書紀』では泉津醜女と表記される。また、一説に泉津日狹女(ヨモツヒサメ)という別名があるとされる。この黄泉醜女は、漢字の表記から「黄泉国の醜い女」と読み取れることから、このような形だと考えられるのが一般的だが、オオクニヌシの別名に葦原醜男(アシハラシコオ)という名があり、これが「醜い男」ではなく「たくましい男」という意味であることから、「醜女」も「霊威が強い」というような意味だとする説がある(だが、イザナギを追うという目的を忘れて目の前に生じた葡萄や筍を夢中で食べてしまっているあたり、あまり頭は良くないらしい)。

なお、黄泉醜女は鬼として扱われることがある。これは『記紀』には黄泉醜女を鬼とする記述はないが、『和名類聚抄』では醜女は「黄泉の鬼」であると説明される。また、黄泉醜女という名前から、性別が女ということで鬼女として扱われることもある。

データ


種 別 鬼女
資 料 『古事記』『日本神話』ほか
年 代 神代
備 考 桃が弱点

資料


『古事記(黄泉の国)』


イザナギとイザナミは二人で協力して国土や森羅万象の神々を生んだ。だが、イザナミが火の神カグツチを生む時に御陰を焼かれてしまい、死者の行く黄泉の国へと旅立ってしまった。

イザナギは もう一度イザナミと会いたいと思い、後を追って黄泉の国へと向かった。黄泉の国のイザナミの御殿に着くと、イザナギは「愛しき妻よ、まだ国作りは終わっていないから帰ってこい」と言った。すると、イザナミは「それは残念なことをしました。どうしてもっと早く来てくださらなかったのですか。私は黄泉の国の食物を食べてしまったので帰ることはできません。ですが、せっかく来て下さったのですから黄泉の国の神々に相談してみましょう。その間、決して私を見てはなりませんよ」と言い、御殿の奥へと入っていった。

そこで、イザナギは言われた通りに待っていたが、いくら待っても一向に返事がない。しびれを切らしたイザナギは、髪に挿していたクシの歯を一本折り、それに火を灯して明かりとし、御殿に入って周囲を見渡してみると、そこには変わり果てた姿になったイザナミがいた。その姿は体中にウジがうごめき、頭から体の端々まで雷が生じているというものだった。

これを見たイザナギが驚きのあまり逃げ出すと、イザナミは「私に恥をかかせましたね」と言って黄泉醜女(ヨモツシコメ)に追いかけさせた。そこで、イザナギは髪に付けていた黒蔓を取って投げつけると、落ちたところから山葡萄が生えてきた。これを黄泉醜女が食べ始めたので その間に逃げのびた。それでもまだ黄泉醜女が追ってくるので、今度は右の角髪に挿していたクシの歯を折って投げると、落ちたところからタケノコが生えてきた。これも黄泉醜女が食べ始めたので、その間に逃げ出した。

すると、今度はイザナミの身体に生じた雷神に1500人の黄泉軍(ヨモツイクサ)を副えて追わせたので、イザナギは十拳剣で振り払いならが逃げ続け、ようやく黄泉比良坂の坂本まで来たので、そこに生っていた桃の実を3つとって投げつけると、追手は皆逃げ去った。そこで、イザナギは桃の実に「お前が私を助けたように葦原中国の人々を助けてやってくれ」と言って、桃に意富加牟豆美命(オホカムヅミ)という神名を与えた。

最後にイザナミ自身が追ってきたので、黄泉比良坂の入口を千引の岩(千人がかりで動かすような大岩)で塞ぎ、悪霊どもが出入りできないようにした。そこで岩越しにイザナミが「あなたがこのような行いをされるので、私はあなたの国の人間を一日に1000人殺しましょう」と言った。これにイザナギは「そなたがそうするなら、私は一日に1500人の産屋を立てよう」と答えた。このため、一日に必ず1000人死に、必ず1500人生まれるのである。

『日本書紀(黄泉の国)』


イザナギとイザナミは二人で協力して国土や森羅万象の神々を生んだ。だが、イザナミが火の神カグツチを生む時に御陰を焼かれてしまい、死者の行く黄泉の国へと旅立ってしまった。

イザナギは もう一度イザナミと会いたいと思い、後を追って黄泉の国へと向かった。イザナミが黄泉の国に着くと、イザナミは「イザナギよ、どうしてもっと早く来なかったのですか。私はもう黄泉の国の竈で炊いた食物を食べてしまいました。私は今から寝るところです。どうか見ないでください」と言った。

しかし、イザナギは聞き入れずに髪に挿していた神聖なユツツマクシの歯を一本折り、それに火を灯して明かりとし、イザナミの寝姿を見に行った。すると、体中にウジがうごめき、膿が吹き出ていた。これを見たイザナギが驚いて「何も知らずにやって来たが、なんと穢らわしい場所なのだ」と言い、大急ぎで走り去った。

これを聞いたイザナミは怒って「どうして私に恥をかかせるのですか」と言い、8人の泉津醜女(ヨモツシコメ)に差し向けた(泉津日狹女とも)。イザナギは剣を振って追い払おうとしたが埒が明かなかったので、髪に付けていた黒蔓を取って投げつけると、落ちたところから野葡萄が生えてきた。これを泉津醜女が食べ始めたので その間に逃げのびた。

食べ終わると泉津醜女はまた追ってきたので、今度はユツツマクシを投げると、落ちたところからタケノコが生えてきた。これも泉津醜女が食べ始めたので、その間に逃げ出した。食べ終わると泉津醜女は追ってきて、さらにイザナミも追いかけ始めた。このとき、イザナギが大木に尿をかけると大きな川になった。泉津醜女がこれを渡っている間に逃げて、イザナギはあの世とこの世の境にあるという黄泉比良坂まで辿り着いた。

そこで、イザナギは黄泉比良坂の入口を千引の岩(千人がかりで動かすような大岩)で塞ぎ、追手が入ってこられないようにした。そこで岩越しにイザナミと話し合い、絶縁を申し出たのである。このときイザナミは「あなたが別れるというのであれば、私はあなたの治める国の人間を一日に1000人殺してやりましょう」と言った。これにイザナギは「そなたがそう言うなら、私は一日に1500人の産ませよう」と答えた。

『和名類聚抄』


醜女(しこめ)。『日本書記』によれば志古女(シコメ)という。あるいは黄泉の鬼である。世の人は恐ろし小児を許許女(ココメ)と称するが、これは醜女が訛ったものである。