ファティマの聖母 ― ポルトガルに現れた聖母マリア ―

2019/08/14

ファティマの聖母【Our Lady of Fatima】

ファティマの聖母とは、ポルトガルのファティマという町に出現した聖母マリアのこと。

この聖母は1917年の5月～10月にわたって6度現れ、様々な予言や奇跡を起こしたことで知られている。

また、この聖母の出現はバチカンによって公認されており、「第三の予言」については今でも議論の的になっている。

基本情報

概要

ファティマの聖母に関する事象は、1915年にポルトガルのファティマという小さな町に住むルシアという少女が天使に遭遇したことに始まる。この年、天使は3度にわたって現れたが、特にメッセージなどを残すことはなかった。

1916年、ルシアが従兄弟のフランシスコ、ジャシンタと一緒にいるときに再び天使が現れる。この年の春に現れた天使はルシアたちに祈りの言葉と祈り方を教え、夏に現れた天使は犠牲を捧げるよう命じ、秋に現れた天使はルシアに聖体（キリストのからだ）、フランシスコとジャシンタに血（キリストの血）を与えた。

1917年5月13日、ルシアたちがコヴァ・ダ・イリアという土地で羊の世話をしていると、ウバメガシの木の上に聖母が出現した。これが最初の聖母出現である。このとき、聖母は「天からやって来た」と話し、ルシアたちに毎月13日の同じ時刻にこの場所に来ることを求めた。以後、計6回にわたって聖母が出現することになるのだが、一連の流れについては後述する「あらすじ」や「聖母出現の詳細」を参照してほしい。

この一連の出来事の中で最も注目されるのが「聖母の予言」と「太陽の奇跡」である。

「聖母の予言」については、1917年7月13日に聖母はルシアに与えた3つの予言のことで、1つ目は「第一次世界大戦の終結」、2つ目は「第二次世界大戦の勃発」であり、そのいずれも的中している。

そして3つ目の予言であるが、これは「1960年まで秘密にし、その年になったら公開するように」と聖母から託されたため、「第三の秘密（第三の予言）」と呼ばれている。ルシアは1960年に教皇庁に伝えたが、ローマ教皇はこの年に公開しなかった。その理由は閲覧した教皇がその場で卒倒するような酷い内容だったからとされており、2000年に公開されたものの、多くの疑惑を招く内容であったため、一般的にも未だに謎とされている。

「太陽の奇跡」については、1917年7月13日の聖母出現の際にルシアが「貴方の出現を全ての人々が信じるように奇跡を行ってほしい」と頼んだところ、聖母は「10月に全ての人がひと目で信じるような一つの奇跡を行いましょう」と答えたことに始まる。聖母の存在については、それまで懐疑的に見られることも多かったが、この一言が大きな反響を呼んで10月13日には7万人を超える人々を現地に集めた。

そこで、人々が目にしたのは暗雲を割って現れた"銀色の太陽"で、極彩色の光を放って辺りを照らし、高速回転しながらグルグル回ったり、ジグザグに動いたりした。そして、10分ほど天空に滞在した後に、地上に向かって人々を押しつぶす勢いで落下してきたので、その場の群衆にパニックを起こさせたという。なお、この現象は「太陽のダンス」とも呼ばれる。

このような一連の出来事は「ファティマの奇跡」とも呼ばれ、バチカンにも奇跡として公認されている。また、UFOや宇宙人といった概念が一般的になった現代では、この現象が"宇宙人によるものではないか"ともいわれるようになった。

データ

種　別	超常現象
資　料	ルシアの手記、当時の新聞記事など
年　代	1915～1917年
備　考	バチカンに奇跡として公認されている

あらすじ

・1915年の春、ポルトガルのファティマに住むルシアという少女が天使と遭遇する
　・天使は同年4～10月までに計3回現れたが、メッセージなどは残さなかった
・1916年の春～秋、ルシアと従兄弟のフランシスコとジャシンタが天使から計3回のメッセージを受ける
　・春、子供たちの前に"平和の天使"が現れて、祈りの言葉と祈り方を教える
　・夏、子供たちの前に"ポルトガルの天使"が現れて、犠牲を捧げるよう命じる
　・秋、子供たちの前に"カリスを持った天使"が現れて、聖体と血を与える
・1917年5月13日、ルシア、フランシスコ、ジャシンタの前に"天から来たという貴婦人"が現れる（1回目）
　・貴婦人は子供たちに"これから半年間毎月13日の同じ時刻にコヴァ・ダ・イリアに来るよう"に求めた
　・この出来事は村中に広まり、教区司祭によって記録も取られた
・1917年6月13日、村人の集まるコヴァ・ダ・イリアに貴婦人が現れてルシアにメッセージを告げる（2回目）
　・ルシアが貴婦人（以下聖母）に自分と従兄弟達は天国に行けるのか尋ねると、聖母は"天国に行ける"と答えた
　・ただ、"ジャシンタとフランシスコはまもなく連れて行くが、ルシアは残らなければならない"とも言った
　・聖母はルシアに"自分の存在を人々に知らせ、愛させるよう"に求めた
　・聖母の姿を見てと会話できたのはルシアだけで、その他の者にはそれが超常現象のように見えたという
　・この出来事は教区司祭によって"悪魔の発明"と宣告されたので、ルシアは迫害に遭うようになる
・1917年7月13日、聖母がルシアに予言を与える（3回目）
　・前回の噂が広まったことで、コヴァ・ダ・イリアには2000人ほどの群衆が集まっていた
　・ルシアが聖母に"人々にその存在を知らしめるよう"に頼むと、聖母は"10月に奇跡を起こす"と約束した
　・聖母は子供たちに地獄のビジョンを見せて、罪人が地獄に行くことになることを教えた
　・聖母はルシアに大戦争の終焉と勃発に関する予言を与えた
　・聖母は戦争阻止のため、"私の心にロシアが奉献すること"と"初土曜日に償いの聖体拝領がなされること"を求めた
　・聖母はルシアに「第三の秘密（非公開）」と呼ばれる予言を与えた（1960年に公開せよとも）
・1917年8月14日、子供たちが誘拐されたことで聖母との約束が破られる
　・8月10～15日にかけて役人による子供たちの監禁・尋問が行われた
　・14日にコヴァ・ダ・イリアには2万人の群衆が集まり、白い小さな雲が留まる様子を目撃したという
・1917年8月19日、ヴァリニョスに聖母が現れる（4回目）
　・聖母は10月に奇跡を行うことを約束し、このときに主や2人の聖母が来ることを告げた
　・ルシアが人々の献金の使い道を問うと、聖母は行列で担ぐ2つのカゴの制作と聖堂の建造を求めた
・1917年9月13日、聖母が大群衆の前で10月の奇跡について予言し、超常現象を起こす（5回目）
　・この日、コヴァ・ダ・イリアには3万人を超える大群衆が集まっていた
　・聖母が現れるときに天から球体が降りてきて、周辺を黄金色に照らした
　・ルシアが聖母に話しかけると、ヴァリニョスでしたのと同じ予言を告げた
　・聖母が去るときに球体が上昇するように見え、去った後に雪片のようなものが落ちてきた
・1917年10月13日、聖母が予言どおりに大奇跡を起こす（6回目）
　・この日、コヴァ・ダ・イリアには7万人を超える大群衆が集まっていた
　・聖母が現れると球形の雲が天から降りてくるように見えた
　・ルシアが聖母に話しかけると、聖母は"ロザリオの聖母"であることを明かし、戦争終結を予言した
　・聖母が去ると、太陽が異常な光を放ったり、ジグザグに動いたりした
　・太陽の異常行動は10分続き、やがて空から落ちてくるように動いて人々を驚愕させた
　・この現象は「太陽のダンス」と呼ばれ、当時の多くのメディアで報道されることになった
　・この現象は子供たちには"主や聖母の出現"に見えていたという

群衆が目撃した超常現象

聖母の出現時
・聖母が降り立ったとされるウバメガシの木が揺らいだ［2回目］
・空に稲妻が走った［4、6回目］
・ウバメガシの上に真っ白な小さな雲が留まった［4回目］
・空から異常な光を放つ球体が降りてきて、周辺を黄金色に照らした［5回目］

聖母の消失時
・ロケットのような轟音がした［2回目］
・聖母の去った東の方角にウバメガシの木や枝がなびいた［2回目］
・聖母の去った東の方角に雲がなびいた［2回目］
・人々や周辺のものを虹色に染めた（照らした？）［4回目］
・銃声のような弾ける音が聞こえた［4回目］
・卵型の球体が空に上っていった［5回目］
・空から光る雪片のようなものが落ちてきて、落ちた後に消失した［5回目］
・太陽が異常な光を放ったり、ジグザグに動いたりした［6回目］

聖母の予言と検証

「戦争はもうすぐ終わります」

・予言の当時、第一次世界大戦の最中であった
・予言の翌年である1918年11月11日に第一次世界大戦は終結した

「人々が神に背くことを止めないなら次の教皇（ピオ11世）の時代にもっと酷い戦争が始まります。未知の光が空を照らす夜が、神があなた方に与える大きな印になるでしょう」

・1938年の1月25日～26日にかけてヨーロッパ全域で血のように赤いオーロラが観測された
・ピオ11世が在位を終えた年である1939年9月に第二次世界大戦が勃発した（正確には退位後）

「それ（もっと酷い戦争）を阻止するため、私は"ロシアが私の汚れない心に奉献されること"と"初土曜日に償いの聖体拝領がなされること"を望みます。もし人々が私の望みに耳を傾けるなら、ロシアは回心して世界に平和が訪れるでしょう。もしそうしなければ、ロシアは世界中に誤謬を広めて戦争と教会の迫害を推し進めることになるでしょう」

・予言から4ヶ月後の11月7日にロシアで十月革命が起こった
・十月革命からロシア内戦を経てソビエト連邦（ソ連）が誕生した
・ソ連の成立後、一切の宗教の存在を否定する共産党の一党独裁国家となった
・1939年にソ連はドイツとともにポーランドを侵攻し、第二次世界大戦のきっかけをつくった

後日談

跡地に建てられたファティマ大聖堂

・聖母の予言通り、1919年にフランシスコが10歳で、1920年にジャシンタが9歳で流行病で死去した
・1919年4月28日より、地元民によって現地に小さな礼拝堂の建設が始められる
・1920年5月13日に礼拝堂にマリア像が設置され、1921年10月13日に最初のミサが行われた
・1922年3月6日に礼拝堂が破壊される
・1922年5月3日にローマカトリック教会による調査が始まる
・1923年に礼拝堂が再建される
・1925年にルシアがスペインのドロテア修道会に入り、シスターとなる
・1929年6月13日、ルシアの前にキリストと聖母が現れて啓示を下した
　・「教皇が全世界の司教と共同でロシアをキリストと聖母の御心に奉献すれば世界に平和は訪れる」というもの
・1930年10月13日、レイリア司教によって"聖母の出現"が公認され、ピオ12世によって巡礼が正式に許可された
・1935年にジャシンタの遺体が墓地から掘り起こされるが、顔の部分が腐敗してなかったので奇跡とされた
・1935年より、ファティマの奇跡の詳細がルシアの手記によって発表される（1943年まで）
・1940年、ピオ12世によって"聖母の出現"が公認される
・1942年10月31日、教皇ピオ12世がラジオで教会と全人類を聖母の汚れない御心に奉献した
・1949年にファティマ大聖堂の建築が始まる
・1950年、ピオ12世がこの年に「太陽のダンス」を4回目撃したと発表する
・1951年5月1日にジャシンタの遺体がファティマ大聖堂に移動される
・1952年3月13日にフランシスコの遺体がファティマ大聖堂に移動される
・1952年7月7日、ピオ12世が使徒的書簡を出してロシアの人々を聖母の汚れない御心に奉献した
・1953年にファティマ大聖堂が完成し、翌年にバシリカの称号を与えられる
・1960年に「第三の秘密」は公開されなかった（閲覧した教皇は絶句して封印したとも）
・1967年、教皇庁により最初に聖母の出現があった5月13日が「ファティマの記念日」に定められた
・1967年5月13日、パウロ6世がファティマを訪れ、聖母出現の50周年を祝った
・1975年、日本の秋田県にあるマリア像が涙を流すという超常現象が起こる（1981年まで）
・1981年5月2日、アイルランド航空164便がハイジャックされ、犯人の修道士は「第三の秘密の公開」を要求した
・1981年5月13日、バチカンでトルコ人によるヨハネ・パウロ2世の暗殺未遂事件が起こる
・1982年5月13日、ファティマでスペイン人司祭によるヨハネ・パウロ2世の暗殺未遂事件が起こる
・2000年5月、教皇庁によって「第三の秘密」が公開される（が、ルシアはバチカンが嘘をついていると語った）
　・2005年にヨハネ・パウロ2世に著作で「第三の秘密」は自身の暗殺未遂事件であると解釈を述べた
・2005年2月13日、ルシアが97歳で心不全で死去する
・2000年代、インターネット上に「第三の秘密の原文」に関する書き込みが行われる
　・ヨセフと名乗るバチカンの奉仕者が「2035年に第三の秘密の原文が公開される」と書き込んだ

※把握しているもののみを記載

聖母出現の詳細

天使の出現

1915年「ルシアが天使と遭遇する」

ルシア

1915年4月、ポルトガルのファティマという小さな町に天使が現れた。天使を目撃したルシア・ドス・サントスという少女は「天使は昼食後に"ロザリオの祈り"を唱えているときに現れた。その姿は雪で作られた像のように白く、光り輝いており、まるで紙に巻かれた人のようだった」と語っている。ルシアは天使のことを家族に話さなかったが、ルシアの友人から噂が広まった。その後、天使は同年10月までに2回ほど出現したがメッセージなどは残さなかったという。

1916年「ルシア、フランシスコ、ジャシンタが天使からメッセージを受ける」

フランシスコとジャシンタ

1916年の春、ルシアが従兄弟のフランシスコとジャシンタの3人でカベソの丘で羊の番をしていたとき、オリーブの木の上に"雪よりも白い14,5歳くらいの少年"の姿を見た。その少年は自らを「平和の天使」と称し、子供たちに"祈りの言葉"と"額が地につくように身をかがめる祈り方"を教えた。子供たちは天使に従って3回ほど祈りを繰り返すと、天使は立ち上って"イエズスとマリアも人々の嘆願の声に注意を払っている"ということを伝えた。

同年の夏、ルシア、フランシスコ、ジャシンタの3人が木陰で昼寝をしようとしていると、、自らを「ポルトガルの天使」と称する天使が現れて、子供たちに祈りと犠牲を捧げるよう命じた。ルシアが"どのように犠牲を捧げればよいのか"を問うと、天使は「自分にできる全てのことを犠牲とし、これを償いとして神に捧げればこの国に平和をもたらすでしょう」と答えた。

同年の秋、ルシア、フランシスコ、ジャシンタの3人はカベソの丘で羊の世話をしていた。昼食後、子供たちは天使の教えの通りに跪いて額を地につけながら何度も祈っていると、異常な光に照らされ、目の前に「カリスを持った天使」が現れた。そのカリス（聖杯）の上には聖体があり、中には血が入っていた。天使はカリスを空中に浮かせ、子供たちに傍らに跪いてイエズスとマリアを讃える祈りを3回唱えた。それから、聖体をルシアに食べさせ、カリスの血をフランシスコとジャシンタに飲ませると、再び祈りを3回繰り返して消え去った。この数日後、子供たちは体内に神を感じるようになったという。

聖母の出現

1917年5月13日「ルシア、フランシスコ、ジャシンタの前に貴婦人が現れる（1回目）」

ファティマの位置

1917年5月13日、ルシア、フランシスコ、ジャシンタの3人は、ルシアの両親が所持するコヴァ・ダ・イリアという土地で羊の世話をしていた。このとき、ルシアは10歳、フランシスコは8歳、ジャシンタは7歳であった。

この日、子供たちが昼食後にロザリオを唱えてから丘の上で遊んでいると、突然空に強烈な閃光が煌めいたので、暴風雨が来ると思って急いで家の方に移動し始めた。

子供たちが丘の途中にあるウバメガシの木のところまで来ると、その木の上に"全身を白い衣装に包まれた貴婦人"がいるのを見つけた。ルシア曰く"太陽よりも明るく、水の入った水晶のコップよりも透明で、強い光線を発していた"のだという。子供たちは貴婦人との距離が近かったので、彼女から発せられる光の中に取り込まれた。

そこで、ルシアが貴婦人に素性を尋ねると、彼女は「天から来た者です」と名乗り、子供たちに「この先の6ヶ月間毎月13日の同じ時刻にこの場所に来るように求めます。そうすれば、後に私の正体と望みを明かしましょう」と告げた。このとき、ルシアは貴婦人に天国について様々な質問をすると、彼女はそれに答えた。今度は貴婦人がルシアに人々のために自身を神に捧げるかを問うと、ルシアはこれを受け入れると答えた。

貴婦人がルシアとの問答を終えて両手を広げると、その手からとても強い光が放たれて子供たちを包んだ。すると、子供たちは跪き、心の中で繰り返し神に祈りを捧げた。この後、貴婦人は子供たちに対して世界平和と戦争終結がもたらされるように毎日ロザリオの祈りを唱えるよう告げた。ここでルシアが戦争がどれくらい長引くのかを問うたが、貴婦人は自分の望みを明かす前なので答えることはできないと言い、東の空に昇っていった。

貴婦人が現れた時間は10分ほどで、彼女の姿を見ることができ、言葉を交わすことができたのはルシアのみだった。なお、フランシスコは彼女の姿が見えず、ジャシンタはすべてを見聞きすることはできたが話すことはできなかったという。また、今回の出現についてはジャシンタが母親に告げてしまったことで明るみになり、その翌日にファティマ教区の司祭によって記録されることになった。

1917年6月13日「群衆の集まるコヴァ・ダ・イリアに聖母が現れる（2回目）」

1917年6月13日、この日はポルトガルの守護聖人である聖アントニオの祝日であった。

この日は貴婦人との約束の日であったため、子供たちは言われたとおりにコヴァ・ダ・イリアに向かった。すると、そこには噂を聞きつけた近隣の村人たちが50人以上も集まっていた。そこでルシア、ジャシンタ、フランシスコの3人がロザリオの祈りを唱えると、彼らに光が近づいてきてウバメガシの木の上に"あの貴婦人（以下、聖母とする）"が現れたのである。

ルシアが聖母に望みを尋ねると、聖母は"毎日ロザリオの祈りを行い、読み書きの勉学に励むことを望む"と答えた。また、ルシアが聖母に一人の病人の癒やしを頼むと"その者が回心するならば今年中に癒える"と答えた。

ルシアが聖母に自分たちを天国に連れて行ってほしいと頼むと、聖母は「ジャシンタとフランシスコはまもなく連れて行くことになりますが、ルシアは彼らよりも少し長く地上に留まらなければなりません。なぜならイエズスは人々に私の存在を知らせ、愛させるためにルシアを使うことを望んでおられるからです…」と答えた。

ルシアが一人だけ残されることを聞いて落胆していると、聖母は"私は決してルシアを見放すことはないので気を落とさないように"と励ました。そして、聖母は両手を広げて子供たちに向けておびただしい光線を注いだ。この現象について、ルシアは「このとき私達は神の中に浸されたようでした。聖母の右手にはイバラに囲まれた心臓があり、イバラのトゲは心臓を突き刺していました。私はこれがマリアの汚れなき御心が人々の罪によって踏みにじられたものであり、聖母は人々に償いを求めていることを理解しました」と語ったという。

なお、この様子を見ていた人々は口々に不思議な現象が起こったことを報告した。例えばファティマ教区のマリア・カレイラは"ルシアが聖母が去りゆくことを示した際にロケットのような音がした"と証言している。また、"聖母が現れた際にウバメガシの木に人が乗ったように傾いた"という証言や、"聖母が去ったといわれる東方に向けて木の枝や雲が動いた"という証言もあるという。しかし、一様にして聖母そのものを見たという証言は無いため、聖母とのやり取りについては子供たちにしか感じられなかったとされている。

また、ルシアは当時は"毎月13日に出現した場所に行くこと"と"ロザリオの祈りを毎日唱えること"の2点以外は明かさず、これ以外について問われても"秘密である"としか答えなかったという。その理由は"神によってそうするように促されたように感じた"というものであったが、こうした対応によってルシアは村人たちから不信を抱かれるようになった。

さらにルシアの母親や姉妹さえもルシアを疑いの目で見るようになり、加えて教区司祭のフェレイラによる尋問の後に"これは全て悪魔の発明である"という宣告を下されたことで、ルシア本人も"自分は悪魔に騙されたのではないか"という疑念を抱くようになった。そして、遂にルシアは約束のコヴァ・ダ・イリアへは二度と行かないという決心をしたという。

1917年7月13日「聖母がルシアに予言を与える（3回目）」

1917年7月13日、前回の一件があってルシアは約束を拒んでいたが、約束の当日になると突然"抵抗できない力"に促されてコヴァ・ダ・イリアに向かわなければならないと感じたという。また、フランシスコとジャシンタはルシアが約束を拒むことに悲しんでいたが、ルシアが一緒に行こうと呼びかけると喜んでついて行った。

なお、この日のコヴァ・ダ・イリアには前回よりも遥かに多くの人々が集まっていた（800～2000人といわれる）。ルシアがロザリオの祈りを唱えると、それに続いて群衆も同じように祈ったという。そして約束の時刻がやってくると、ルシアが"聖母が出現した"と宣言して群衆に日傘を閉じるように促した。

ここでルシアが聖母に望みを問うと、聖母は"ルシアたちが来月の13日にもコヴァ・ダ・イリアに来ること"と"世界平和と戦争終結のためにロザリオの聖母を讃えて毎日ロザリオの祈りを続けること"と答えた。ルシアが"聖母の正体"を尋ねるとともに、"出現したこと人々が信じられるように奇跡を行うこと"を頼むと、聖母は毎月13日に来るならば、10月に"自分の正体"と"自分の望み"を教えると答え、"全ての人々が信じられるように一つの奇跡を行うこと"を約束した。

また、聖母は「あなた方は罪人の回心のために自分自身を犠牲として捧げよ」と教え、犠牲を捧げるときの祈りの言葉を3度繰り返した。そして聖母が両手を広げると、強烈な光線が地上を貫いた。このとき、子供たちは一瞬火の海のような地獄を見せられた。その光景は、人の形をした多くの霊魂が絶望と苦悶のうちに透明な火の固まりとなっていたとされ、ルシアは恐怖のあまり叫び声をあげたという。

子供たちが聖母に救いを求めると、聖母はこのように話した。

「あなた方は罪人たちが行くことになる地獄を見ました。神は世界中に私の汚れなき御心に対する信心を打ち立てること望んでおられます。私が望むことを為されれば、彼らの霊魂も救われ、平和が来るでしょう…

戦争（第一次世界大戦）はもうすぐ終わります。しかし、人々が神に背くことを止めないなら次の教皇（ピオ11世）の時代にもっと酷い戦争が始まります。未知の光が空を照らす夜が、神があなた方に与える大きな印になるでしょう。そして神は人々の罪に対して、戦争・飢餓・教会と教皇の迫害の形で罰されるでしょう…

これを避けるには、私は"ロシアが私の汚れない心に奉献されること"と"初土曜日に償いの聖体拝領がなされること"を望みます。もし人々が私の望みに応えるならば、ロシアは回心し、世界に平和が訪れるでしょう。もしそうしなければ、ロシアは戦争と教会の迫害を起こしながら世界に誤謬を広めるでしょう。そうなれば、罪なき人々が殉教し、教皇は多くの苦しみを受け、様々な国や民族も滅亡するでしょう…（この部分は「ファティマ第三の秘密」であるため非公開）

それでも最後には私の汚れない心が勝利するでしょう。教皇はロシアを私に奉献し、ロシアは回心して一定の期間は平和が世界に与えられるでしょう。ポルトガルでは信仰の教義が常に保たれるでしょう。このことは誰にも言ってななりません…

あなた方がロザリオの祈りを唱える時、各玄義の後に"ああ、イエズスよ、我らの罪を許したまえ。我らを地獄の火より守りたまえ。また全ての霊魂、ことに主の御憐れみを必要とする霊魂を天国に導きたまえ"と言いなさい」

ここでルシアがさらに望みを尋ねると、聖母は"今日はこれ以上は望みません"と告げたという。

この後、ルシアの母親はルシアに辛く当たるようになり、司祭に嘘をついたことを謝るように命じたが、ルシアは全て事実であると言って母親の言うことを拒んだ。一方、司祭はルシアに丁寧に話を聞き出して、内容に矛盾がないかを精査したが、矛盾点を見つけることができなかったのでルシアを放免した。また、この日を境にコヴァ・ダ・イリアに信心深い者や好奇心の強い者が集まるようになり、ここでロザリオの祈りを唱えるようになったという。

1917年8月「子供たちが役人に誘拐されたため、聖母との約束が破られる」

1917年8月、ファティマで起こった出来事の影響は大きく、もはや地域的な規模の問題ではなくなっていた。当時のポルトガルでは自由主義的な思想が強く、この考えが政治やマスコミを支配していた。そのため、新聞などでファティマの一件が人々の思想に影響を与えることを問題視する報道も行われたという。

8月10日、ルシアの父親であるアントニオ・ドス・サントスと、ジャシンタとフランシスコの父親であるマヌエル・マルトに"8月11日の正午に子供を連れて町役場まで出頭せよ"との通知が出された。町役場までは遠く、マヌエルは一人で出頭することとし、アントニオはルシアを連れて出頭することにした。

8月11日、彼らが町役場に着くと、郡長は子供を連れてこなかったマヌエルを激しく非難した。また、ルシアは郡長の尋問によって聖母との秘密を明かしてしまい、さらにコヴァ・ダ・イリアには二度と行かないように脅迫された。

8月12日、翌日がコヴァ・ダ・イリアでの約束の日であったため、ファティマには大群衆が集まり始めた。この日の街中の道路は、自転車、自動車、馬車などあらゆる種類の車で溢れたという。

8月13日、この日の朝9時に郡長がマヌエル宅にやってきた。郡長は"子供たちを馬車でコヴァ・ダ・イリアまで送ってやる"と言ったが、子供たちはこれを拒んだ。そこで郡長は司祭館の神父を訪ね、神父にルシアするよう要求した。ここでもルシアは事実をありのままに答え、質問の後に郡長の馬車でコヴァ・ダ・イリアまで送ってもらうよう促された。

郡長の馬車は最初はコヴァ・ダ・イリアの方角に向かっていたが、突然進路が変えられた。ルシアがこれに抗議すると、郡長はオウレムの司祭館によって自動車に乗り換えると嘘をついた。なお、郡長が子供たちを連れて行く様子が群衆によって目撃されており、その時の馬車には子供たちを隠すように敷物が掛けられていたと言われている。

それから馬車は1時間ほどして郡長の家に到着した。郡長は子供たちを部屋に監禁すると秘密を明かすまで外に出さないと脅迫した。しかし、昼になると郡長の夫人が子供たちに昼食を与え、遊ばせたりもしたという。結局、子供たちは約束の13日にコヴァ・ダ・イリアに行くことはできなかった。郡長は何事もなく、全てが失敗に帰すであろうと考えていたが、現場では奇妙な現象が起こっていた。

この日、コヴァ・ダ・イリアに集まった人々は2万人程度だったという。以前に聖母が現れたウバメガシの木の周辺には群衆が集まり、ロザリオの祈りを唱え、聖歌も歌われた。しかし、約束の時刻になっても子供たちが現れなかったので、群衆はざわつき始めた。そこでファティマから来た者が"郡長が子供たちを誘拐した"と告げると、人々は騒ぎ立てた。

この瞬間、突然空に稲妻が走り、ウバメガシの木の上に真っ白な小さい雲がしばらく留まった。それから雲は上昇していき、やがて消え去ったという。すると、人々の顔や衣服および周辺の木々の葉までもが虹色に染まった。この現象はコヴァ・ダ・イリアに集まった多くの人々によって目撃され、皆は"これは聖母が現れた印である"と口にしたという。そのため、子供たちを監禁してまで事態を鎮めようとした郡長の思案は逆の結果を生むことになった。

8月14日、郡長は子供たちから秘密を聞き出そうと、老夫婦を使って尋ねさせたが上手くいかなかった。次に子供たちを一人ずつ呼び出して金銭や物品を餌にして尋問をしたが失敗に終わった。次に子供たちの仲を裂いて口を割らせようとしたが、これも駄目だった。そこで、郡長は子供たちがヒステリーか幻覚を見たことにしようと医師を呼んで医学的に検査させたが、異常を見つけることはできなかった。

郡長は子供たちに秘密を吐かせることに躍起になり、遂に囚人たちの入った監獄に閉じ込めることにした。子供たちは恐怖のあまり激しく動揺したが、そんな中でもフランシスコは"この苦しみを罪人たちの回心のために捧げよう"と言って励ましたという。この後、子供たちは個別に呼び出されて尋問されたが秘密を明かすことはなかった。そこで郡長は"これから一人ずつ生きたまま煮えた油の中に入れる"と脅すと、子供たちは本気で殉教を考えるようになった。

そこで子供たちは聖母の教えの通りに祈りを始めると、囚人たちも一緒にロザリオの祈りを唱えた。しばらくするとジャシンタが呼び出されて"油に入りたくなければ秘密を明かせ"と脅された。続いてフランシスコ、ルシアの順で呼び出されて脅迫されたが誰しも秘密を明かすことはなかった。最後に郡長は"3人一緒に釜茹でにするぞ"と脅したが、それでも子供たちは頑として秘密を明かさなかった。

8月15日、郡長の尋問は尽く失敗に終わったので、子供たちをファティマに帰さざるをえなくなった。彼らがファティマに着いた時はちょうど聖母の被昇天のミサが終わったところで、郡長は子供たちを司祭館の入口に置いて早々に立ち去った。なお、人々は司祭もグルになって子供たちを誘拐したのではないかとの疑いをかけていたので、司祭は自らの潔白を主張する声明を発表したという。

8月19日「ヴァリニョスに聖母が現れる（4回目）」

8月19日、子供たちはミサを済ませた後、ロザリオの祈りを唱えるためにコヴァ・ダ・イリアに向かった。そして、羊に草を食べさせるためにヴァリニョスに移動すると、そこでルシアは直感的に聖母の気配を感じ取ったという。このとき、ルシアはフランシスコとその兄のジョンの3人で行動していたので、ジョンにジャシンタを呼んでくるように頼んだ。しばらくしてジョンがジャシンタを連れて戻ってくると、稲妻とともにウバメガシの木の上に聖母が現れた。

ルシアが聖母に望みを尋ねると、聖母は"13日にコヴァ・ダ・イリアに行くこと"と"毎日ロザリオの祈りを続けること"を望むと答えた。また、最後の月には全ての人が信じるような一つの奇跡を行うことを約束し、その日には"私たちの主"および"ロザリオの聖母"と"悲しみの聖母"が来ることも告げた。

続けてルシアが聖母に人々がコヴァ・ダ・イリアに残した金銭で何をすることを望むかを尋ねると、聖母は"2つのカゴを作らせること"を望むと答えた。このカゴはロザリオの聖母の祝日のためのもので、一つのカゴはルシアとジャシンタの他に2人の少女が白い衣装を着て担ぎ、もう一つのカゴはフランシスコと他の3人の少年が担ぐのだという。また、残った金銭は聖堂の建設に役立てるようにと言った。

また、ルシアがある病人を癒やしてほしいと頼むと、聖母は"今年のうちに何人かの人々を癒しましょう"と約束した。続けて聖母はルシアに罪人たちのためにもっと祈るようにと告げ、東の方角に去っていったという。

この日の聖母の出現には、ルシア、フランシスコ、ジャシンタの他にもジョンが立ち会うことになった。ジョンはルシアが見に見えない何かと話している様子を見ているが、聖母の姿や声を感じることはできなかったという。しかし、聖母が去っていく際に銃声のように弾ける雷鳴が聞こえたとも語っている。

また、この日にはフランシスコとジャシンタが聖母の現れたウバメガシの木の枝を家に持ち帰った。ジャシンタはその枝を持って母親にヴァリニョスで見た聖母について話したが、母親は信じることは無かった。しかし、その枝からは得も言われぬ良い香りがしたとされ、父親はこの枝を以ってジャシンタのことを信じるようになったという。

1917年9月13日「聖母による奇跡の予言と超常現象（5回目）」

9月13日、この日は夜明けからファティマに向かう道路は大混雑していた。人々はロザリオを唱えながらコヴァ・ダ・イリアに向かって歩き続け、正午近くになる頃には3万人もの大群衆が現場に押し寄せていた。子供たちはウバメガシの木を目指して人混みの中を進んでいくと、途中で人々から様々な願い事を取り次いでほしいと懇願されたという。

子供たちはウバメガシの木の前までやってくるとロザリオの祈りを唱え始めた。ルシアが先唱すると続けて大群衆も唱和した。正午になると辺りは完全な沈黙に支配され、まもなく聖母を賛美する声が響き渡った。すると、晴天の空に東から西に向けてゆっくりと滑っていく球体が現れ、人々はそれに向かって一斉に手をあげた。その球体は異常な光を放っていたが突然消え去り、ウバメガシの木に近づいていった。そのとき、太陽の輝きが鈍り、周辺は黄金色に染まったという。

ルシアが聖母に望みを尋ねると、聖母は"戦争終結のためにロザリオの祈りを続けること"を望むと答えた。また、10月には"私たちの主"をはじめ、"悲しみの聖母"と"カルメルの聖母"および、"聖ヨゼフ"と"幼子イエズス"が来ることも告げた。

続いてルシアは聖母に人々に頼まれた願い事について話し、特に病気や障害を癒やす願いが多かったことを告げた。聖母は「ある人々は癒やしましょう。ですが全てではありません。なぜなら主は彼らを信用しておられないからです」と答えた。

最後にルシアは人々がここに聖堂を建てたいと思っていることを話すと、聖母は「資金の半分でロザリオの聖母の祝日に行う行列で担ぐためのカゴを作り、残りの半分で聖堂を作りなさい」と答えた。

このとき、ルシアはオリヴァル教区の者に託された2通の手紙と香水の小瓶を聖母に捧げようとしたが、聖母は天国にそれらは必要ないとして受け取りを拒否した。そして、"10月に全ての人々が信じるように一つの奇跡を行う"と約束して、空に昇って去っていった。

このとき、多くの人々が卵型の球体が東方に上がっていく様子を目撃した。また、同時に空から"白い花びらのようなもの"や"丸まった輝く雪片のようなもの"が落ちてきたとも報告されている。なお、これらの落下物は地上に落ちたときに消失してしまったという。

この後、子供たちは人々につきまとわれて質問攻めに遭うようになった。また、コヴァ・ダ・イリアの大地は人々に踏み荒らされ、畑の野菜も取れなくなってしまった。そのため家計は苦しくなり、家畜の羊も売り払わなければならなくなったので、子供たちは親から非難を浴びせられるようになったという。

10月の初め、ルシアとジャシンタはレイクシダのメネゼス夫人によって匿われることになった。しかし、すぐに居場所も突き止められてしまい、メネゼス夫人宅にも人が押しかけるようになったので、メネゼス夫人はもし10月に予言どおりに奇跡が起きなければ群衆によって子供たちが殺されてしまうのではと心配したが、ルシアとジャシンタは確信に満ちた様子でその心配はないと答えたという。

1917年10月13日「聖母が予言どおりに大奇跡を起こす（6回目）」

このときの太陽

太陽を見る人々

1917年10月13日、この日は"奇跡の予言がされた日"であった。そのため、雨が降っているにもかかわらず、前日より大勢の人々がコヴァ・ダ・イリアに向かって集まっていた。彼らはロザリオの祈りを唱え聖歌を歌いながら泥濘んだ道を進み、雨避けの無い野原で夜を過ごしたという。

この日、ルシア、フランシスコ、ジャシンタはそれぞれの父母とともにコヴァ・ダ・イリアに向かった。子供たちがウバメガシの木の前に着くと、ルシアは群衆に向かって傘を閉じてロザリオの祈りを唱えるよう求めた。すると、群衆はルシアに従い、ずぶ濡れになりながらロザリオの祈りを始めた。

午後1時半頃、ルシアは東方を向いて稲光が見えたと言って聖母の出現を示唆した。そして、しばらく脱魂状態になったが、ジャシンタに気付かされて正気に戻り、聖母と話を始めた。

ルシアは聖母に望みを問うと、聖母は"私を讃えて此処に聖堂を建てること"と"毎日ロザリオの祈りを続けること"を望むと答えた。そして、聖母は"ロザリオの聖母"と名乗り、まもなく戦争が終わることを予言した。

次いでルシアが"ある病人の癒やし"と"ある罪人の回心"を頼むと、聖母は"ある人々は癒やしますが、ある人々は癒やしません。人々はその生活を改め、罪の赦しを願わなければなりません"と答えた。また、聖母は悲しげな様子になって"彼らはこれ以上私たちの主に背いてはなりません。すでに彼らはあまりにも主に背いています"と言った。

さらにルシアが望みを問うと、聖母は"これ以上望みは無い"と答えた。なのでルシアも"これ以上問いません"と言った。

なお、ルシアと聖母が話している間、ウバメガシの木の上には9月13日と同じような球形の雲があり、聖母が去ると同時にその雲も上方に昇っていった。すると、周辺一帯には甘い香りが漂った。ジャシンタの母親によれば以前に持ち帰られたウバメガシの枝と同じ香りだったという。

また、聖母が去っていく際にルシアが群衆に向かって「太陽を見なさい」と叫んだ。このとき、ルシアには"聖母が両手を広げて光り輝き、その光を太陽に投影させた"様子が見えたというが、人々には"太陽が色々な方向に光線を発したり、光の当たるものを様々な色に染め上げたり、ジグザグに動いたりした"ように見えたという。

この現象は約10分間続き、この太陽の光を裸眼で見ても眼を痛めることはなかった。そして、最後には大回転しながら地上に落ちかかってくるように見えたので、これを見た人々は叫んだり、泣き喚いたり、地にひれ伏したりし、中には大声で自分の犯した罪を告白する者もいたという。なお、この光景を目撃した人々の数は7～8万人といわれている。

結局、この太陽は動きを止めて落ちることなかったので、人々は助かったという思いで胸をなでおろすことができた。これが聖母が予言していた奇跡の内容であり、聖母の約束どおりに人々は信じざるを得ない結果となった。そのため、この現象は当時のポルトガルの多くのメディアで報道されることになり、後に「太陽のダンス」と呼ばれるようになった。

しかし、この奇跡を知らせることになった子供たちは「太陽のダンス」を見ておらず、以前に聖母が示した「聖ヨゼフが幼子イエズスを連れ、聖母が白い衣装に青いマントを羽織って太陽の側に立つ姿」を見ていた。

このとき、聖ヨゼフと幼子イエズスはそれぞれが手で十字架の印をして世界を祝福し、その後に主イエズス・キリストと聖母が現れてヨゼフと同じやり方で世界を祝福し、この後にも聖母が出現したという。ルシアによれば、主とともに現れた聖母が"悲しみの聖母"で、最後に現れた聖母が"カルメルの聖母"だとされている。

こうして6度にわたる聖母の出現は幕を閉じた。しかし「第三の秘密」と呼ばれる予言は未だに明らかにされていない。

参考資料：ファチマの真実

備考

映画『The 13th Day』

ファティマの聖母は、2009年にアメリカで『The 13th Day』というタイトルで映画化されている。

聖母の宇宙人説

聖母のスケッチ

ファティマの聖母に関わる情報は、教会に報告されてから"いくつか改変された"ともいわれており、その部分は「天使の存在」「聖母の容姿」「落下してきた雪片のようなもの（エンゼル・ヘア）」とされている。

上図はルシアの証言に基づいて描かれた聖母のイラストであるが、この聖母には"透明な船に乗って現れ、発光するオーブを持っており、頭髪のない女性であった"という特徴があるといわれている。

なお、聖母の出現に関わる超常現象の中には「発光する球体」のような未確認飛行物体の目撃情報が付随しており、"太陽の奇跡"においても「高速回転する円盤」と表現する目撃談もある（ちなみに1917年の当時はUFOや宇宙人といった概念が無く、こういったものと結びつける発想に至らなかったといわれている）。

また、エンゼル・ヘアは1950年代に目撃されるようになったもので"UFOの出現に伴って発生する"と言われているが、時代が下るにつれて「雪片のようなもの」から「花びらのようなもの」に改変されたのではないかという指摘もある。

こうした理由から「ファティマの聖母は宇宙人だった」という説が唱えられており、ルシアが1960年に公開するようにいわれた「第三の予言」がバチカンによって未だに隠されているのも、"地球外生命体の存在を隠さなければならない"という理由が背景にあるからではないかといわれている。

珍奇ノート