阿久良王 / 阿黒羅王【アクラオウ】
珍奇ノート:阿久良王 ― 由加山に棲んでいた鬼の頭目 ―

阿久良王(あくらおう)は、岡山県の由加山を根城にしていたとされる鬼の頭目のこと。

人々を襲う悪鬼であったため、坂上田村麻呂に討伐されたと伝えられている。


基本情報


概要


阿久良王は、平安時代に岡山県倉敷市にある由加山に棲んでいたとされる鬼の頭目で、資料によっては 阿久羅王、阿黒羅王 とも表記される。身体的特徴は語られていないものの、変幻自在の妖術を使ったとされ、霧や霞のようになって身を隠したり、身丈を変えて物陰に潜んだり、美しい娘に化けて若者を誑かして誘拐していたとされる。

また、阿久良王には東郷太郎、加茂二郎、稗田三郎という3人の手下がいたとされる。この3人は、阿久良王の子、阿久良王の家来、阿久良王と親交のあった者など資料によって立場が異なるが、阿久良王は この手下を連れて人里に降り、金品の略奪や人さらいなどの悪事の限りを尽くしていたので、困った人々が都に訴えると、勅命によって坂上田村麻呂が由加山に派遣されることになった。

田村麻呂は鬼の住処に向かう前に神仏に戦勝祈願すると、由加山までの道中で神仏が老人の姿で現れて田村麻呂の手助けをした。また、その老人は田村麻呂に「人が飲めば薬になるが、鬼が飲めば毒となる」という霊酒を授けたという。それから田村麻呂はその先で手下の鬼に襲われるが、これを手懐けて鬼の住処への案内役にし、鬼の住処で女鬼に霊酒を飲ませて退治すると、これに怒った阿久良王と激しく争うことになる。

この時、阿久良王は変幻自在の妖術を駆使して戦ったが、田村麻呂も神仏の加護を得て戦ったので、その戦は7日7晩も続いたという。この戦では、やがて田村麻呂が勝利することになったが、阿久良王は死の間際に今までの行いを反省し、瑜伽大権現の眷属となって人々を助けることを誓った。それから田村麻呂が阿久良王の首を落とすと、阿久良王の遺体は光を放って飛び散り、75匹の白狐に変じたという。それ以来、白狐は瑜伽大権現の神使となって人々を助けたとされている。

このように「阿久良王は坂上田村麻呂に討伐された後に、75匹の白狐となって瑜伽大権現の眷属になった」という形で締めくくられるが、退治の方法についてはいくつかのパターンがあり、上記のように激しく戦ったものや、酒盛りの最中に田村麻呂に攻められたもの、田村麻呂に酒に誘われて酔い潰れたところを攻められたもの といったものがある。

早良親王という説

桓武天皇の皇太弟である早良親王は、藤原種継暗殺事件の共謀の疑いをかけられて淡路国に配流にされる途中で憤死したとされるが、『備陽国史』や『東備郡村誌』などでは「密かに逃れて阿久良王と名乗った」とされているらしい。これはあくまで言い伝えであって史実とは異なるが、早良親王が非業の死を遂げた後に長岡京で様々な怪異が起きたことは史実として知られている。

悪路王との関係

阿久良王は、東北の鬼(あるいは蝦夷)として知られる悪路王と名前が似ているが、伝説の内容に共通点や類似点が見られないので別物だと思われる。

データ


種 別 日本妖怪、鬼
資 料 『瑜伽山縁起』ほか
年 代 平安時代
備 考 配流された早良親王という説がある