手長婆【テナガババア】
珍奇ノート:手長婆 ― 異様に長い手を持つ老婆 ―

手長婆(てながばばあ)とは、長い腕を持つ老婆の妖怪のこと。

青森県や関東地方に伝えられており、異様に長い腕と恐ろしい形相が特徴とされている。


基本情報


概要


手長婆は青森県や関東地方に伝わる妖怪で異様に手(腕)が長く、この手を使って子供を水中に引き込んだ あるいは 海に手を伸ばしては貝類を捕って食べていたとされる。

この手長婆と類似するものには、福井県や福島県に伝わる手長足長や、埼玉県八潮市に伝わる手長などが挙げられる。また、中国には長臂人と呼ばれる異様に手の長い人種がいたとされ、これも手長婆と同様に手を水中に入れて漁をしたとされている。

青森県の手長婆
青森県では、大昔に三戸郡田子町の北にある貝守ヶ岳の山頂に棲んでいたとされ、そこから八戸の海にまで手を伸ばして貝を捕っていたとされている。

関東地方の手長婆
関東地方では、下総地方あるいは千葉県南部の南房総市に伝えられている。

下総地方では、長い手を持つ白髪で恐ろしい形相の老婆で、水辺で遊ぶ子供を水中に引き込むといわれており、水辺で遊ぶ子供を嗜めるのに手長婆の名が使われたという。

南房総市では、異様に手が長く鬼のような形相の老婆とされ、千倉町(白間津地区)の山腹の洞穴に棲んでおり、洞穴に居ながら浜に手を伸ばして貝類を捕っていたとされる。この洞穴は今では「手長婆の洞」と呼ばれており、洞穴の中では手長婆が食ったとされるサザエやアワビなどの貝類がたくさん見つかるという。

手長婆と類似するもの
福島県の鹿狼山に住んでいたとされる手長足長は手足が長く、山頂に居たまま浜に手を伸ばして貝類を捕ったとされており、福井県の安島に住んでいたとされる手長・足長は"腕が長い手長"と"脚の長い足長"という別々の存在で、足長が手長を背負って海に入り、手長が水中に手を入れて漁をしていたといわれている。

これと同様に中国の長臂人も手だけが長かったので、脚の長い長股人に背負われて海に入り、長臂人が長い手を使って漁をしていたとされており、これらには青森県田子町や千葉県南房総市の手長婆と一定の共通点が見られる。

また、大瀬村(現・埼玉県八潮市)には てなが(手長) という妖怪がいたとされ、池や沼の底などに潜み、水辺に近づく子供など異様に長い手を使って水中に引きずり込むといわれており、下総地方の手長婆と共通した特徴が見られる。

データ


種 別 日本妖怪
資 料 各地の民話
年 代 大昔(詳細不明)
備 考 手長足長、足長手長に類似

資料


貝守ヶ岳の手長婆(青森県田子町)
大昔、貝守ヶ岳の山頂には手長婆という巨大で異様に手が長い老婆が棲んでおり、空腹になると遠くの八戸の海に手を伸ばしては海中の貝を捕って食っていたという。そのため、今でも貝守ヶ岳の山頂では貝殻がたくさん見つかるという。

手長婆の伝説(千葉県南房総市)
昔、洞穴に手の長い一人の老婆が住んでいた。里人たちは、その老婆を手長婆と呼んでいたが、この老婆の素性を知る者は居なかった。なぜなら、この老婆は手が長いだけでも気味が悪いのに、その上 顔が鬼のように恐ろしかったので、誰も付き合おうとしなかったからである。そのため、手長婆は一人で洞穴に暮らしているのであった。

この手長婆の唯一の慰みは磯物を捕ることであった。その方法は手長婆の特有のもので、洞穴に座ったまま里越しに長い手を延ばして磯物を捕るのである。その漁場は大川と白間津の境辺り浜だったという。この手長婆はずいぶん長生きしたといわれているが、いつ死んだのか、どうして死んだのかを知る者は居ない。今は千倉町の白間津地区の氏神に近い山腹に、この手長婆が住んでいたという2つの洞穴が残っており、そこは「手長婆の洞」と呼ばれている。この洞穴の内部を探ると、サザエやアワビの貝殻などがたくさん出てくるという。