石見の牛鬼【イワミノウシオニ】
珍奇ノート:石見の牛鬼 ― 島根県の石見地方に伝わる牛鬼 ―

石見の牛鬼(いわみのうしおに)とは、島根県の石見地方に伝わる牛鬼のこと。

牛の頭に蜘蛛のような身体を持つとされ、夜の海に現れて人を襲うといわれている。

また、濡れ女と共に現れるという伝説もある。


基本情報


概要


石見の牛鬼は、島根県の石見地方に伝わる牛鬼で「牛の頭に蜘蛛のような身体」あるいは「長い角のついた鬼の頭に牛のような身体」を持っているとされている。

日中には姿を見せず、夜の海に現れて人を襲うといわれており、漁師や釣人に恐れられている。また、濡れ女と共に現れるという伝説や、古い椿の根が変化した化物であるという伝説もある。

神仏の力に弱いのか「神札を見て逃げた」あるいは「仏飯を食べて遇うと逃げた」という説話もある。

夜の海に現れる牛鬼
邇摩郡には、牛鬼が夜の海に現れて漁師を襲ったという伝説がいくつかある。

ある春の日に漁師が鯖釣りに出掛けたところ、夜更けに岸の方から「行こうか、行こうか」という声がするので、漁師が「来たけりゃ来いや」と言い返すと、牛鬼が海に飛び込んで追いかけてきたという。そこで漁師は逃げ出して付近の民家に逃げ込むと、追ってきた牛鬼は民家に貼られていた出雲大社の神札を見て恐れて逃げ出したという。

また、別の話にこのようなものもある。

夜に鰯漁をしていた漁師たちが網にイワシを入れて引き上げたところ、網には一尾も入っていなかった。漁師たちは自分の目を疑ったが、不漁に終わったことに気分を害して一旦 それぞれの家に帰ることにした。その中の一人の漁師は海に忘れ物して取りに戻ろうとしたが、その時に妙な気配を感じた客人が仏飯をたべてから出かけるように言ったので、漁師はその通りにしてから海に向かった。漁師が海に戻ると、そこに牛鬼がいたので死を覚悟したが、仏飯を食べていたことことから、牛鬼は慌てて海に逃げ去ったという。

濡れ女と共に現れる牛鬼
大田市には、濡れ女ともに現れた牛鬼の伝説が伝えられている。

ある男が夜釣りから帰ろうとした時に、濡れ女が現れて赤子を抱くように迫ってきた。男が赤子を抱くと濡れ女は消えてしまったが、男が赤子を投げ捨てて逃げ出すと、牛鬼が追いかけてきたので、男は付近の農家に逃げ込んで難を逃れたという。

また、江津市にも同様の伝説が伝えられている。

昔、ある神職が夜釣りに行くと、そこに濡れ女が現れて赤子を抱くように迫ってきた。神職が赤子を抱くと濡れ女は消えてしまったが、神職が赤子を捨てようとすると、赤子は石のようになって腕から離れなくなり、さらに後ろから牛鬼が追いかけてきたという。神職がその場から逃げ出すと、途中で何か光るものが飛んできて、それが牛鬼の頭に刺さった。それから追ってこなくなったので、神職が家に帰ると家に置いていた刀が無くなっていた。そこで、神職はこの刀が牛鬼を追い払ってくれたのだと分かったという。

ちなみに、地元では濡れ女に赤子は腕にくっつくので、渡された時には「手袋をはめて抱く」か「アシナコ(草履)を手にはめて抱く」と、うまく投げ捨てられるといわれているらしい。

古椿が化けた牛鬼
邇摩郡には、古い椿の根が牛鬼に化けたという伝説が伝えられている。

ある夜、老いた漁師が小船で沖に出掛けたところ、そこに牛鬼が現れたので漁師は捕えて持ち帰り、船小屋の前にさらして皆に見せた。その時に見物人の若者が牛鬼の頭を櫂で打ち付けると、それは古い椿の根だったという。

データ


種 別 日本妖怪、鬼、伝説の生物、UMA
資 料 石見地方の伝説
年 代 不明(近代?)
備 考 大田市・江津市では濡れ女と一緒に現れるといわれる