疫病神 / 厄病神【ヤクビョウガミ / エキビョウシン】
珍奇ノート:疫病神 ― 疫病を蔓延させる神 ―

疫病神(厄病神)とは、疫病を蔓延させるとされる神のこと。

疫病神が家に住み着くと、家人に病気や災いをもたらすといわれている。


基本情報


概要


疫病神(厄病神)は世の中に疫病を蔓延させるといわれる神で、疫神(厄神)あるいは疫病みの神と呼ばれることもあり、疫病をもたらす鬼である疫鬼と同一視されることもある。

その風体は鬼や妖怪のような奇怪なもので、1~5人で村を彷徨って疫病を蔓延させたり、気に入った家に住み着いて家人に病や災いをもたらすといわれている。このため、悪神として人々に忌まれており、神仏の力に頼ったり、疫病神の嫌うものを使うなど、様々な方法で祓われるようになったという。

このことから、転じて厄介事を持ち込んだり起こしたりする人を「疫病神(厄病神)」と呼ぶこともある。

疫病神の説話
疫病神には様々な説話がある。

『日本霊異記』には「聖武天皇の御代に讃岐国に住む山田衣女が病に罹ったので疫病神に馳走を奉ったところ、冥府の閻魔に山田衣女を連れてくるように命じられた鬼が馳走を食ったので、鬼は山田衣女の恩に報いて同名の鵜垂衣女を身代わりにしようとしたが、結局 閻魔に見抜かれて山田衣女は冥府に連れて行かれた」という説話がある。

『今昔物語集』には「昔、国中で咳病が流行った時に、ある料理人の前に大納言の伴善雄の霊が現れて『死後に行疫流行神となって国中に疫病をもたらしたが、生前に国から受けた恩によって咳病程度にとどめてやった。これをお前に伝えに来たのだ』と言った」という説話がある。

『大語園』には「江戸の播磨屋惣七という男が仕事の帰り道に見知らぬ男に声を掛けられ、その男が『犬が苦手なので同行して欲しい』と言うので惣七は快く連れて行くことにした。すると、男は別れ際に疫病神という素性を明かして『毎月3日に小豆粥を焚く家には、私の仲間は入りません』と教えた」という説話がある。また、これと同様に「ある老女が、浅草辺りで物乞い風の女に蕎麦を食わせてやったところ、その女は疫病神という素性を明かして『疫病に罹ったらドジョウを食べるように』と教えた」という説話もある。

悪疫退散の儀式・授与物・風習
疫病神を追い払うための儀式や風習には以下のようなものがある。

儀式


・追儺:中国由来の疫病除けの儀式で、宮中では大晦日に行われていた(節分の豆まきの由来とされる)
・鎮花祭:平安時代に宮中で行われていた疫病鎮めの祭り(今でも奈良の大神神社などで行われる)
・やすらい祭:4月中旬に京都の今宮神社で行われる疫神鎮めの祭り(京都三大奇祭の一つ)
・大般若会:『大般若経』を読み上げる法会で、疫病退散のために行われることもある
・茅の輪くぐり:茅で作られた大きな輪をくぐって無病息災や厄除けをする行事

授与物


・角大師の護符:比叡山延暦寺の高僧・良源を象った護符で悪疫除けの護符として有名
蘇民将来符蘇民将来の説話に因む護符で「蘇民将来子孫也」と書いた札が悪疫除けになるという
・厄除け粽:京都の祇園祭で授与される粽で悪疫除けの効力があるといわれる
・鍾馗図:中国に伝わる神 鍾馗の図像には魔除けの効験があるとされる(これを授与する社寺がある)
白澤図中国に伝わる瑞獣 白澤の図像には厄除けの効験があるとされる(長野の戸隠神社などで授与される)

民間信仰


・門守:玄関の出入口に掲げるもので、護符や柊鰯などがある
・柊鰯:柊の小枝と焼いた鰯の頭を刺して門口に掲げるもので、これで鬼や疫病神を祓う
・豆まき:節分に豆を撒いて鬼や疫病神を祓う
・小豆粥:疫病神を祓うために冬至に小豆粥を食べたという宮中行事に由来する
・赤い物:赤色(朱色)には魔除けの意味があり、玩具・浮世絵・着物に赤を用いて魔除けとしたとされる
・五芒星(セーマン):隙間が無いため魔が入らず、一筆書できるので元の場所に無事に帰れるといわれる
・九字切(ドーマン):目がたくさんあるので見張りになるといわれる
・大草鞋:特定の地域では、大きな草鞋を掲げて疫病除けをする民間行事がある
・道祖神:疫病や悪霊の侵入を防ぐ神として、集落の境界や道の辻などに置かれるもの
・人形送り:岩手県の西和賀町白木野地区で行われる疫病神を藁人形に背負わせて送り出す民間行事
・鹿島様:秋田県などで作られる巨大な藁人形で、道祖神の一種とされる
・お人形様:東北地方で作られる巨大な藁人形で、道祖神の一種とされる

データ


種 別 神仏
資 料 『日本霊異記』『今昔物語集』『大語園』ほか
年 代 上古~現代
備 考 疫鬼と同一視されることがある