天鳥船 【アメノトリフネ】
珍奇ノート:アメノトリフネ ― 天地を往来する船の名を持つ神 ―

天鳥船(あめのとりふね)とは、「日本神話」に登場する神 もしくは 船(乗り物)のこと。

イザナギ・イザナミの子とされるが、主に乗り物として描かれることが多い。

また、天上から地上に天降ったという記述から "空を飛ぶ乗り物" と認識されることもある。


基本情報


概要


アメノトリフネは「日本神話」に登場する神で、イザナギとイザナミ(国産み・神産みの神)の子とされる。

神話中には類似した船が多数登場するが、そのうち トリノイワクスフネの別名で、アメノイワクスフネとも同一視されており、説話の中では 主に"何かを乗せる船"といったニュアンスで登場している。

『古事記』の国譲り神話において「天上から派遣されたタケミカヅチの副神として天降った」という説話から"空を飛べる船"と認識されることがあるが、神話中には"空を飛ぶ"などの具体的な特徴は 特に記されていない。

そのため、特徴は神名などから推測されており、「天鳥船」という神名から"鳥が空を飛ぶように進む船"、また「鳥之石楠船」という神名から"石のように堅く、楠を使って造られた船"という説が唱えられているようだ。

なお、神社の祭神として祀られていることもあり、船の神・運輸の神・交通の神などとして信仰されているという。

データ


種 別 日本神話の神
資 料 古事記、日本書紀、先代旧事本紀(旧事紀)ほか
年 代 神代
備 考 神であり、乗り物でもある

日本神話


各資料による天鳥船


アメノトリフネは、『古事記』『日本書紀』を始めとする史料(古史古伝を含む)に登場している。

『古事記』では、イザナギ・イザナギの子として生まれ、国譲りの際にタケミカヅチに副神として天降ったとされる。

『日本書紀』では、イザナギ・イザナギの子で、ヒルコを捨てる際に乗せた または オオクニヌシに国譲りを了承させる条件として造らせる といった形で登場している。

この他にもいくつかの説話があるが、生命体というよりも "無機質な乗り物" をイメージさせるものが多い。

主な説話


・イザナギ・イザナミが生んだ神(古事記・日本書紀・旧事紀)
・ヒルコを乗せて捨てた(日本書紀)
・国譲り交渉の際に、タケミカヅチの副神として出雲に天降り、コトシロヌシを迎えに行った(古事記・旧事紀)
・国譲り交渉の際に、オオナムチ(オオクニヌシ)の海遊具として造られることになった(日本書紀)

神名
・天鳥船(アメノトリフネ・アマノトリフネ)
・鳥之石楠船(トリノイワクスフネ)
・天磐橡樟船(アメノイワクスフネ・アマノイワクスフネ)

類似するもの

・天鴿船(アマノハトフネ):フツヌシ・タケミカヅチがコトシロヌシに使者を出した時に使った船(日本書紀)
・天磐船(アメノイワフネ):ニギハヤヒが天降った時に乗ったとされる空飛ぶ船(日本書紀・旧事紀)

資料




「神産み」



イザナギとイザナミは、国を産み終えると次に神々を生んだ。

そこで生まれた神にトリノイワクスフネ(鳥之石楠船神)がおり、別名をアメノトリフネ(天鳥船)という。


「葦原中国平定」



オオクニヌシが地上の国造りを終えると、天上の高天原にいたアマテラスは「この豊かな国は我が子のオシホミミが統べるべきである」と言い、オシホミミに統治を命じた。

しかし、地上は騒がしく、すぐに統治することは難しかったので、アマテラスは使者を遣わせて 地上を統べるオオクニヌシに国を譲るよう働きかけた。だが、悉く失敗したので、遂に武力に優れたタケミカヅチを派遣することになった。

このとき、アマテラスは タケミカヅチにアメノトリフネを副えて天降らせた。

タケミカヅチとアメノトリフネは、出雲の伊那佐の浜に降り立ち、十拳剣(トツカノツルギ)を抜いて逆さまに海に立て、その切っ先にあぐらをかいて オオクニヌシに国を譲るよう問いかけた。

すると、オオクニヌシは「我が子のコトシロヌシが答えるだろう」と言ったので、タケミカヅチはアメノトリフネを遣わせ、コトシロヌシを呼び寄せて国を譲るよう問いかけると、コトシロヌシは「この国は天津神の御子に譲りましょう」と答えた。

タケミカヅチは オオクニヌシに「他に意見のある子はいるか?」と問うと、オオクニヌシは「タケミナカタという子がいるが、この他に意見を言う子はいない」と答えた。

この問答の最中、タケミナカタが巨大な岩を持ちながら現れて「我が国を奪おうと、ひそひそ話しているものは誰だ?力比べで決めようではないか」と言った。

そこで、タケミナカタが タケミカヅチの手を取ると、その手はツララのような氷の刃と化した。そこで、タケミナカタは恐れをなして引き下がると、今度はタケミカヅチが タケミナカタの手を掴み、まるで若い葦を掴むように握りつぶして放り投げてしまった。

タケミナカタは その場を逃げ出して 遂には諏訪にまで到ったが、やがてタケミカヅチに追い詰められたので、命乞いをし、国譲りを認めることと、二度と諏訪から出ないことを誓った。

そして、出雲に戻ったタケミカヅチは オオクニヌシに再び問いかけると、「我が子の言う通り、国は譲ることにしよう。ただし、私の住処を高天原の御子が継ぐ神殿のように、地底に太い柱を立て、空に高々とそびえる神殿として欲しい。そうするなら、幽界に引き下がるとしよう」と答えたので、タケミカヅチは高天原に帰って そのように報告した。



「第五段 本文」



イザナギとイザナミは、国々や自然の神々を生んだ後、互いに話し合って天下を治められる日の神を生みだした。この神をオオヒルメ(オオヒルメノムチ)といい、別の書ではアマテラスや、アマテラスオオヒルメとも呼ばれている。

このオオヒルメは体が光輝いており、この光が天地を照らした。それを見たイザナギとイザナミはとても喜んで「今まで多くの子を生んだが、これほど霊威の強い子はいなかった。よって、この国に長く置いておくわけにはいかない」と言い、オオヒルメを天に上げて、天上の教育をさせることにした。

この時はまだ天地が近かったので、オノコロ島に立てた柱から その手でオオヒルメを天に上げた。

次に月の神が生まれた。この神は別の書ではツクユミ、ツキヨミなどと呼ばれている。月の神は、日の神に次いで明るい光を放っていたので、日に添えて天を治めることができるだろうと思って、同様に天に上げることにした。

次にヒルコが生まれた。ヒルコは3歳になっても足で立てなかったので、アメノイワクスフネに乗せて捨てることにし、風に任せて流してしまった。

次にスサノオが生まれた。別の書ではカムスサノオ、ハヤスサノオとも呼ばれている。スサノオは勇敢な性格だったが、我慢が足りず、いつも泣き喚いていたので、多くの国民が死に、青い山々は枯れ果ててしまった。

そのため、イザナギとイザナミは、スサノオに「お前は道に外れているので宇宙に君臨することは出来ないだろう。遠い根の国へ行ってしまえ」と言って追放してしまった。


「第五段一書 第二」



ある書によれば…

イザナギとイザナミがオオヒルメ(アマテラス)とツキヨミを生んだ後、ヒルコが生まれた。

しかし、ヒルコは3歳になっても足で立つことができなかった。これは、イザナギとイザナミが柱を回った時、 陰陽の理に反して イザナミから先に話しかけたためである。

このため、ヒルコが生まれ、次にスサノオが生まれた。

スサノオが常に鳴き喚き、怒り狂っていたので、多くの国民が死に、山は枯れ果ててしまった。そこで、イザナギとイザナミは、スサノオに「もし、お前がこの国を治めたならば、必ず多くの者が傷つけられるだろう。よって、お前は遠い根の国へ行くがよい」と命じた。

次にトリノイワクスフネが生まれた。よって、ヒルコは この船に乗せて流してしまった。

以下省略


「第九段 一書 第二」



ある書によれば…

オオクニヌシが地上の国造りを成した後、天神は フツヌシとタケミカヅチを遣わせて地上を平定させようとした。

その前に、二神は「天にはアマツミカホシ(アマノカカセオ)という悪い神がいる。まず、この神を倒してから天降り、葦原中国(地上)の神を一掃しよう」と言い、イワイノウシ(フツヌシ)が この戦の戦勝を祈願した。

その後、二神は地上に天降り、出雲の五十田狹の小汀(いさだのおはま)に着くと、オオナムチ(オオクニヌシ)に天神に国を譲るよう問いかけた。しかし、オオナムチは「お前たちが私のところに来る資格があるかも疑わしいのに、国を譲れるわけがないだろう」と答えて国を譲ろうとしなかったので、二神は天に報告した。

報告を受けたタカミムスビは 二神を再び地上に遣わせて、オオナムチに このように伝えるよう命じた。

「貴方の言うことには道理が通っている。そこで、一つ一つ細かく説明することにしよう。まず、貴方の治める現世の事は すべて皇孫(ニニギ)が治めるべきである。よって、貴方には神事を治めて欲しい。

そのかわり、貴方が住むべき天日隅宮(アマノミスミノミヤ)は今から造ることにする。千尋の栲縄を180箇所も結んで組み立て、柱は高くて大きく、板は広くて厚くしよう。また、田も作ることにしよう。

貴方が海に行くための、高橋や浮橋、アメノトリフネ(天鳥船)も造ろう。また、天安河に打橋を作り、百八十縫の白盾も作ろう。そして、貴方の祭祀をアメノホヒに司らせることにしよう」

二神がオオナムチに伝言を伝えると、オオナムチはこのように答えた。

「天神の申し出は なんと丁寧なことだろうか。よって、この命令に従わないわけにはいかないだろう。そこで、私が治める現世の事は皇孫に任せ、私は幽界を治めまることにしよう」

そして、オオナムチは「今から私はここから去る。その代わりに この神が仕えるだろう」と言って、二神にフナトノカミを推薦し、瑞之八坂瓊(ミヅノヤサカニ)を依り代として永久に身を隠してしまった。

その後、フツヌシはフナトノカミの先導のもと、地上を巡って各国を平定し、逆らう者は斬り殺し、従う者には褒美を与えた。このときに従った首長は、オオモノヌシとコトシロヌシであった。


備考


フィクション


・「女神転生シリーズ」では、空飛ぶ船のような姿で描かれている